子育ての悩み・子供の相談(2)感情

感情は思考の影

ある出来事に対して、どの人も自分と同じ感情を抱くわけではありません。自分に湧いた感情は、当然のものでもなく、一般的に普通だといえる感覚でもなく、人類共通のものではない個人独特のものであるという前提をまずは知ってください。同じ感情を抱くということは、育った境遇などが似ていたり、同じ文化で生きているからです。自分と感じ方が違うといって、他人を排除するのはやめましょう。自分の気持ちをわかってもらおうとばかりせず、自分と違う感じ方をする他人の考え方を理解することに努めると、逆に自分の気持ちも理解してもらうことがしやすくなります。

感情は、日常的な思考、信念の影響を受けています。例えば人に奢ってもらう場合、借りを作りたくないと考える人は奢られることを不快に思い、自分を大切にしてくれているんだなと考える人は、奢られることを喜ぶかもしれません。人によって感じ方が違うといっても、それが自分にとって強い苦痛をもたらすようなものであれば、自分のより良い人生のためにも、周りの人のためにも変えていく必要があります。カウンセリングを利用しましょう。感情は思考の影です。影である感情だけ変えようとしてもうまくはいきません。だから、認知行動療法では、感情に変化を及ぼすために、考え方の修正を行っているのです。

感情に開かれていることと感情的であること

「あの人は感情的だ」と言うときは、冷静な判断があまりできない人といったニュアンスが伴うように、感情は、理性と対比されて語られやすいものです。一般的には、強く感情的な人よりは穏やかな理性的な人のほうが好まれやすいと言えます。一方で、感情がないほうがいいのかといえば、それでは冷たいと言われ、感情的に豊かであることも社会的には望ましいこととされています。何事もバランスというのは大事ですね。

感情は、人間の意思決定にもとても大切なものです。やりたいことや、やりたくないことの区別に役立ち、その場の振る舞い方にも影響し、時には同じ気持ちの人と連帯感を持つといった側面があります。

パーソナリティ障害の人達の中には、感情をほとんど出さないタイプや、自分の感情がわからないタイプ、感情を爆発させてしまうタイプといった方がいますが、やはり、感情が弱すぎるか強すぎるかといったところに問題がありそうです。そして、その多くの方は、感情をあまり好ましいものとは捉えていません。できれば、感情をなくしたいと言われる方が多い印象です。

確かに、感情は生のまま人にぶつけてしまうと、もめごとの原因になりやすく扱いにくいものです。しかし、感情はほんの少し加工して人に伝えれば、相手にも思いが伝わり、問題解決につながっていくものでもあります。黙ってしまうのでも、攻撃的になるのでもなく、カウンセリングでアサーショントレーニングを受けて、アサーティブに(相手の気持ちも考慮した自己表現)感情を表現していくことが大切です。

基本的感情

感情には綺麗も汚いもありません。どんな感情も何かに反応して湧いた自然なものです。それを人の頭が、好き嫌いで判断して、汚いと決めつけているだけです。怒り、落ち込み、嫉妬などさえも、汚い感情では有りません。多くの人は、そのことを知りません。感情は、呑まれることなく、膨らませることなく、自分の考えや行動に活かしていくことが大切です。

人の基本的感情は、喜び・悲しみ・怒り・恐れ・嫌気の5つか、驚きを加えた6つと言われています。驚きは、他の5つの感情が表れる前の状態と考えられることもあるので、基本的には5つと考えてよいと思います。日本で言われているような喜怒哀楽という4つではないのですね。これに倣って、ディズニーピクサーの『インサイドヘッド』では、感情は、ヨロコビ・カナシミ・イカリ・ビビリ・ムカムカの5つのキャラクターとして表現されています。

※今回は、ポール・エクマンのエクマン理論に基づいて基本的感情を書いています。

喜び

嬉しい(やった!・感動・充実感・達成感)、楽しい(笑える・おかしい)、面白い(興味深い・ワクワクする)、安心感、気持ちいいといった快適な感情です。13種類あると考えられています。

感情というのは、良い感情だけ感じて、嫌な感情は感じないようにするということができません。怒りや悲しみといった不快な感情に蓋をしてしまうと、喜びや楽しさといった感情まで感じられなくなってしまいます。不快な感情があるからこそ、喜びといった気持ちも大切に感じられるというものでもあります。スイカに塩をかけたらより甘く感じたり、苦いコーヒーと甘いケーキの組み合わせの相性が良いようなものですね。激しい感情で人生が彩られるような生き方もありかもしれませんが、一般的に穏やかに生きていくことを目指すなら、不必要な強さの不快な感情を認知行動療法で軽減しつつも多少は残し、喜びもほんのりと感じられるようになるのがよいかと思います。

悲しみ

悲しい、切ない、寂しい、憂鬱、残念、無力感など11種類あると考えられています。

「泣くな」、「いつまで泣いてるの、みっともない」という言葉は、過激な言葉で言えば、感情的な殺人、感情殺しです。親自身が泣きたいのを我慢し、自力で頑張ってきたタイプの人が子供にそう言いがちです。悲しんでいる人を見てイライラするのは、自分の奥底に眠る悲しみが「出せ」「泣かせろ」と騒ぐからではないでしょうか。子供は、辛い気持ちでいるところに、親にそのように追い打ちをかけられると、何歳になってもその恨みは消えなくなってしまうので、カウンセリングで、親も自分に悲しむことを許してあげましょう。

怒り

怒り、イライラ、恨み、反抗心など7種類あると考えられています。

人に怒って暴力を振るうよりは、怪我をさせない分、物に八つ当たりするほうがマシです。物に八つ当たりするよりは、物が壊れないので、暴言を吐く方がマシです。強い感情であっても、直接人や物にぶつけずに言葉で解消することができます。ぜひ、カウンセリングに暴言を吐きに来ましょう。例えば、品の良い奥様は、お付き合いされている周囲の方も品が良いので、なかなか「あいつ(夫)マジぶっ殺してやりたい!」と言う場がないですよね。誰にも知られず、思い切ってカウンセリングで言ってみるとスッキリしますよ。

恐れ

恐怖、不安、緊張、狼狽など8種類あると考えられています。

人は不安な時、「どうしよう・・・」と呟きます。考えることに慣れていない人は、どうしたらいいかわからない、で思考を止めてしまっていることに疑問も違和感もありません。「だって、本当にわからないんです」と繰り返します。しかし、ここでもう少し考えることをやめず、「どうしよう」のその先、仮に「こうしよう」まで持っていくことが、不安を不安なままにしないコツなんです。そうなったら嫌だなと思うことから目を背けずしっかりと考えるのです。

昔、非常勤カウンセラーとして働いていた頃は、「カウンセラーとして食べていけなかったらどうしよう」という不安がしょっちゅうよぎっていました。その時は「そうなったら佐○急便で働こう」と仮に決めていました(めちゃくちゃ厳しいけど給料はいいらしいという人づてに聞いたイメージだけです)。実は開業した今でもたまに思っています。そんな感じで「仕事をクビになったらどうしよう」ではなく、「仕事をクビになったら、転職しよう」と考えてみましょう。「転職できなかったらどうしよう」ではなく、「(正社員として)転職できなかったら、アルバイトをしよう」です。「アルバイトさえ見つからなかったら・・・」、「転職できたとしても、ブラック企業だったら・・・」なら、転職活動を続けるしかありません。とにかく、どうしよう止まりではなく、仮にこうするというところまで考えを持っていくことが大切です。

嫌気

苦手、嫌悪、憎悪など7種類あると考えられています。

カウンセリングの現場では、恐れと嫌気のどちらを引き受けて生きていくかという話になったりします。言い換えると、怖いことを引き受けるか、面倒くさいことを引き受けるかということです。仕事をしていると、そのどちらもやりたくないというのは通用しないことがあるのです。例えば、プレゼンなどで、面倒くさくても裏方作業を頑張れば、お偉いさん方の矢面に立って発表しなくて済んだりします。逆に、あまりに面倒くさいことを人に押し付けていると、当日いきなり、これくらいやってよと人前に立たされたりします。どちらにも、向き不向きがあるので、自分の特徴を知って選んでいけたらいいのではないかと思います。

感情体験と感情表出の区別

感情を感じることと感情を表すことを区別しましょう。自分の感情自体は拒絶するものではありません。いらない感情などありません。感情は自分の状態を教えてくれるものなので全て感じましょう。感じた上で、出すか出さないか選ぶのです。感情を感じたらそのまま出てしまう人は、発達的に幼いということです。一方、感情を出せない・・・・というのもまた、幼いということです。健全な大人は、出すか出さないか、どの程度出すかを選ぶことができます。

これは勉強させること以上に、子供の発達にとって大切なことです。親が感情について、出せなかったり、出し過ぎたりすると、子供の発達に影響が出ます。カウンセリングを親が受け、子供の発達に適切に関われるように、感情について詳しくなりましょう。

一方、他人の感情の読み取りに関しては注意が必要です。喜び以外は、人は他人の感情について、他の感情と誤解する可能性があるからです。特に、怒りと悲しみは、相互に間違えられやすいようです。悲しそうにしていると、怒っているんじゃないかと思われたり、逆に、思ってしまったりするということです。嫌悪は、怒りとも悲しみとも受け取られる可能性があるようです。 日本人の表情は、西洋文化圏の表情と異なるという研究も出てきているので、異なる文化圏の人同士では、表情による誤解がより増えるかもしれません。「相手の気持ちがわかるんです」と言う人は、勝手に他人の気持ちを決めつけ、誤解しているだけかもしれません。相手の表情から、相手の感情が必ずしも読み取れるわけではないので、そういった意味でも、感情体験と感情表出は別物であると考えておかなくてはなりません。

EQ – 感情指数

EQという言葉を聞いたことがありますか?知能指数 IQと対応させて心の知能指数と言われることが多いですが、心の知能という言い方があまり良くないので、ここでは単純に感情指数と言っておこうと思います。感情にも発達段階がありますよ、ということです。まだ、科学的には認められていない概念です。しかし、この概念の中の小項目が現場ではなかなか役に立つので紹介します。子育てにおける、子供の心の育て方について多くの示唆を含んでいます。

EQには、感情の識別、感情の利用、感情の理解、感情の調整の4つのポイントがあります。

感情の識別

自分の気持ちを感じ、言葉にする能力です。親が気持ちを表す言葉を日常的に使わないと、子供は気持ちを表す言葉を獲得できません。「子供といっぱい話してるんですけど」というお母さんは多いですが、気持ちについて話せているお母さんは少ないように思います。あれしろ、これしろ、何したの、どこ行ったのという会話をいくらしても、子供は気持ちを表現できるようにはなりません。親「どうだった?」、子「楽しかった」、親「どんな風に楽しかったの?」、子「あのね、ドキドキしたりね───」と子供が気持ちについて話を膨らませられるやり取りが望ましいです。寂しいと悲しい、悲しいと悔しい等が区別できれば子供としては問題なく感情面が育っていると言えるでしょう。

大人の境界性パーソナリティ障害の人は、寂しいと悲しいの区別がつかない人が多いです。区別どころか、どちらの気持ちも「嫌」、「辛い」という表現になりがちです。EQが3歳児くらいで止まってしまっているかのようです。カウンセリングでは、マインドフルネスなどを利用して、感情を体験させ、言葉にさせたりしています。

感情の利用

「今日さぁ・・・、授業中発表したら間違えちゃって、皆に笑われちゃったんだよね・・・」、そんな風に子供が話してきたらなんて返しますか?「そっか、悲しかったのかな?どんな風に思った?」と聞いてあげられたら大したものです。

さて、感情の利用については、この子供の雰囲気、「・・・」というところがポイントです。この子供は、感情を自覚し、悲しそうな話し方ができていて、お母さんにもそれが伝わっているので、感情を利用できているということになります。

これが「今日、授業中発表したら間違えてさー、皆に笑われて、超ムカついた」という雰囲気になると、感情を利用できているかどうかは少し怪しいです。お母さん達は2パターンの受け取り方に分かれます。一つは先のように、悲しかったんだなという理解、もう一つは、言葉通り怒っているんだなという理解です。

悲しかったんだなという想像ができるお母さんはセンスがいいです。「ムカついちゃったけど、その前に悲しい気持ちも少しあったかもね」くらい言えるといいなと思います。そうすれば、この子は、悲しかった気持ちを汲んでもらえたし、そうか、これは悲しくて怒ってるんだなと理解が深まるかもしれません。恥ずかしかったのかなという想像でもいいかもしれません。

一方、「笑われたらムカつくよね」と返されてしまうと、子供は親に同意してもらえているので嫌な気持ちはしないとは思いますが、少し消化不良になるかもしれません。悲しかった気持ちや恥ずかしかった気持ちを汲んでもらえてないからです。しっかりと話を聴き、間違えて笑われてしまった気持ちを想像すれば、怒っていることに少し違和感を覚えて、そのままでは共感できないことも多いはずです。傾聴のオウム返しという手法は、わかりやすくやりやすい方法ではありますが、必ずしも最善の応答とは言えないので注意が必要です。

感情の理解

感情を親に取り扱ってもらえれば、子供は様々な感情を細かく区別、理解することができるようになります。どうしてそういう気持ちになったのか、ある程度の説明ができるようになり、自分の気持ちを落ち着けるために、何らかの行動を取ることもできます。感情の予想もできるようになります。そのことによって、誰に言われるでもなく、自分が自分の気持ちを良くしようという行動がとれるようになります。それを主体性と呼びます。

また、他人の感情も理解できるようになるということなので、思いやりといった気持ちを持つことができるようになります。一方で、自分の気持ちと相手の気持ちの間で葛藤が生じ始めます。「A君の気持ちもわかるけど、Bちゃんの気持ちもわかるし・・・」といった形で間に挟まれてしまうこともあります。そんな時は、親が子供に「いろんな人の気持ちを想像できるようになったから悩んでいるんだね」という感じで声をかけてあげられたらよいのではないかと思います。

感情の調整

場面によって、感情を伏せる、抑えることができるようになります。少しだけ出すというのは高度な方法です。子供の内は、後で家に帰ってお母さんに聞いてもらおうと先延ばしにすることができれば十分でしょう。

家でも親に気持ちを出さないようなのは、調整ではなく我慢です。それでは喜びを感じる心も失われてしまいます。また、母親には気持ちを話せても、父親には話せないという子供は多いものです。そんなのどの家もそうでしょ、と簡単には考えないほうがいいと思います。親としての役割を十分に果たせていない親子関係は機能不全家族と言われ、パーソナリティ障害の大きな要因となっています。いまさら無理だと諦めず、気持ちの交流のある温かい家庭に作り直していきましょう。子供の気持ちを直接取り扱わなくても、夫婦間で気持ちをどう取り扱うか、実際にやってみせてあげても効果は高いです。カウンセリングで一緒に考えていきましょう。


感情の取り扱いは勉強より優先されるものです。感情の大切さが少しは伝わったでしょうか。