自己愛憤怒 – 怒りの心理

怒りを感じたらどう対処したらいい?

アンガーマネジメントの6秒ルールはデタラメ!

6秒経ったら怒りが収まる───(?)これ、完全に嘘ですよね。収まるわけがありません。正確には、怒りを感じると6秒間理性を失うけど、6秒経てば少しは落ち着いて考えられるようになるので、とりあえずは黙って6秒だけ怒りを我慢してみましょう程度のことのようです。逆に、6秒で収まればその程度の怒りだったというだけの話です。

6秒ルールに効果があったと感じられるのは被暗示性の高い人で、おそらくプラセボ効果によるものでしょう。怒りがそれほど強くない一般の人には多少の効果があるのかもしれませんが、怒りの強い人が来る臨床的にはほとんど効果がないです。怒りへの対処行動の中で、何もしないという一番簡単な方法で、かつ6秒という短い数字が魅力的だから独り歩きをして、爆発的に広まってしまったのでしょう。

怒りを感じたらトイレに行く(タイムアウト法)

心理学的には、待つだけでは消極的すぎるなと思います。6秒待ってからでもいいですが、収まらないときはその場から離れましょう。カウンセリングでは、怒りを感じたらトイレに行くことを一つの方法として勧めています。タイムアウトという方法です。しょっちゅう怒りを感じる人は、トイレに行き過ぎて下痢か頻尿だと思われてしまうかもしれませんが、怒りをお漏らしするよりはよいのではないかと思います。

怒りを感じたらしゃがむ(拮抗行動)

すでに怒鳴ってしまって、その場から離れられない雰囲気になってしまったら、せめてしゃがんで相手と目線の高さを合わせましょう。メリットとしては、しゃがみながら怒るのは意外と難しいということと、相手から見て威圧的だと感じられにくくなることです。立っていると、腕組みをしたり、腰に手を当てたりして拒絶的な態度になりがちです。相手が座っているところに立ったまま見下ろして怒るのはやめましょう。相手が寝転んでいたら、しゃがんでも見下ろしている目線になるので効果が足りないです。その場合は相手と同じ姿勢で寝転びましょう。しゃがむ、寝転ぶことができたら、怒り以外の行動を取れた自分のことを認めてあげましょう。

怒りを感じたら目を閉じる(刺激遮断)

もし、会議などで怒りを感じてしまったら、立ち去ることもしゃがむこともできません。そんな時は目を閉じましょう。怒りを感じた対象を見続けてしまうと、嫌なところばかり目について余計にイライラしてしまいます。しかし、この見たくないものを見ないという当たり前のことが、意外とできないものなんです。なぜなら、嫌いという感情は、すでに興味を持ってしまっている状態だからです。全くどうでもいい興味のないことに、人は感情的に反応しないのです。

なので、自分が嫌いな相手や怒りを感じる相手の、何に反応してしまっているのか、何に興味を持ってしまったのか目を閉じて考えてみるとよいと思います。「なんでこいつはこんなにも上から目線なんだ」、「なんでこの子は嘘ばっかりつくんだろう」と考えたならば、自分は上から目線に反応しやすかったり、嘘に反応しやすかったりするということが見えてくるかもしれません。相手そのものに対する怒りではなく、相手の行動に対する怒りであることに気がつきましょう。

相手の怒りに対しては寄り添う(タイムイン法)

逆に、相手が怒っている時に、離れよう、あるいは遠ざけようとすると、より一層怒りを増幅させてしまいます。相手が自ら離れる場合は追いかけないほうがよいですが、できれば相手の話を聞いたうえで、(1)怒りを感じているのは伝わってきたことと、(2)怒りのままに怒鳴ったりするのは、「よくない」ではなく、「怖い」ということ、の2点を伝えましょう。感情と感情表現を別物として取り扱うのがポイントです。この時点でピンとこない人は、カウンセリングに来た方がいいと思います。

もう少し、怒りについて掘り下げてみていきましょう。

怒りとは

怒りは危険にさらされた時の生物としての反応です。闘争・逃走反応 fight or flightと言われている片方が怒りです(英語も日本語もつけた人センス良すぎて感心します)。怒りは相手を拒絶する力なので、大切な相手、特に子供に対して向けるものではありません。怒っておきながら、相手のためと言ったり、相手と良い関係になろうなんて虫が良すぎます。怒りを向けた相手からは嫌われて当然です。日常的に子供へのイライラが収まらないなら、子供を変えるのではなく、カウンセリングで自分の考え方を変えていきましょう。

適切な怒りとは

権利の侵害に対する反発力

では、適切な怒り、怒ってもいいのはどういう時でしょうか。怒りは、権利の侵害に対して跳ねのける際に必要な反発力です。異性に体を勝手に触られたら咄嗟に怒っても構いません。他人に自分の持ち物を盗まれそうになったら怒って構いません。急いで自分の権利を回復するための手段が怒りなのです。

だから、子供が言うことを聞かないというだけでは怒ってはいけません。親はなんの権利も侵害されていないからです。子供は親の言いなりになる必要はないし、親は子供に言うことを聞かせる権利なんて持っていないからです。ましてや、精神的に未発達な子供相手に、拒絶する力を向けるなんて大人のすることではありません。厳しいことを書いていますが、ネット上に書いてある「時には怒ることも必要」なんて甘い言葉に惑わされてはいけません。あとで子供との関係が悪くなって苦しむのは親なのですから。

危険に対する瞬発力

例外的に、子供が命にかかわるような危険な行動をしたときのみ、間髪入れず、強く怒る必要があります。火に関すること、刃物や刺さる可能性のある物に関すること、暴力に関すること、高所からの落下に関することなど、そのようなことに関して子供がふざけているような時には、優しく注意している場合ではありません。その瞬間に怒鳴りつけて、二度と手を出さないように、危険であることを記憶に焼きつけてしまうのです。日頃、怒らない親であれば、より一層その効果は高まります。逆に、日頃から親に怒られている子供は、親の怒りに慣れてしまっているので効果はありません。また怒られたーくらいにしか思わないです。そして、自分がしたことが、どのくらい危険なことなのかわからないままになってしまいます。 このような理由からも、いざという時に怒りを効果的に使うため、普段からは怒らないほうがよいのです。

普段から怒っているのは、適切な怒りではなく、思い通りにならない自己中心的な怒りです。

不適切な怒りとは – 自己愛憤怒

実際には自分の権利は侵害されていないのに、権利を侵害されたんだから怒って当然だ!と感じるようなものが不適切な怒りです。早く寝たいのに子供がなかなか風呂に入らない、私が早く寝る権利が子供に邪魔されている!と言い張られるお母さんがいますが、全く理屈が通っていません。本当は、子供に邪魔されているのではなく、子供を風呂に入れる方法を母親が見つけられていないのが原因なんですが、こうなってくると、もう権利というのが全然理解できていない状態です。早急にカウンセリングにお越しください。

また、自分が傷けられたのだから相手に怒っていいとも思いがちです。傷つく側が傷つきやすい考え方や捉え方をしているとは考えていません。自分の傷つきを理由にして相手に怒る形を、自己愛憤怒といいます。自己愛憤怒は、負の感情が背景にありますが、自覚していない場合が多いです。

理解できない時の怒り – 不安による自己愛憤怒

「なんで捨てちゃったの!?」、「どうして昨日の内に言わないの!?」、「ちゃんと言ったよね!?」といった疑問系の怒りは、わからないから怒っているという状態です。顕著な場合は、それに加えて 「ちゃんと説明して」、「わかるように言って」という口癖も見られます。これは、私がわからないままにされているという不安からくる自己愛憤怒なんです。怒らず、不安だと自覚して、表現できるようになりましょう。

自己評価より他者からの評価が低かった時の怒り – 悲しみによる自己愛憤怒

何かを人に見せたときの反応がいまいちだったり、仕事で頑張ったのに思ったほど褒めてもらえないといった場合の怒りです。「せっかく提案したのに自分の意見が採用されない」、「なんで私の言うことに耳を貸さないんだ」、「不当に軽く扱われている」、「なめられている」という、自分の能力が低くみられているという悲しみからくる自己愛憤怒です。怒らず、悲しいということを表現できるようになりましょう。

自分が集団や話題の中心にいない時の怒り – 寂しさによる自己愛憤怒

目の前の二人が、自分の知らない話題で盛り上がっている時などに感じる怒りです。その正体は、のけ者にされたという寂しさからくる自己愛憤怒です。もしかしたら、不安も混ざっているかもしれません。怒るのではなく、寂しさを表現できるようになりましょう。

不利な立場になった時の怒り – 焦りや恥による自己愛憤怒

「この間言ってたことと矛盾しない?」、「これやっておいてって頼んだよね?」と他人から言われ、自分でも「しまった」と感じると、それを覆そうとして怒ってしまったりします。図星なことを言われたり、人前で指摘されたときの、焦りあるいは恥からくる自己愛憤怒です。素直に、焦っている気持ちや恥ずかしいという気持ちを表現できるようになりましょう。

自己愛憤怒のその他の例

連絡

「どうして連絡してくれないの!?」、「どうして返事を返してくれないんだ!」と激しく問い詰めるような「してくれない」という怒りは自己愛憤怒です。あたかも、3歳児が「抱っこして」とか「見て、見て」と繰り返し要求し、親がそれに応じないと手足をバタバタさせて泣いて怒るかのようです。子どもにとって親は自分の一部で、いつでも自分の要求を満たしてくれる存在だから、その年齢の時はそれでいいのですが、大人になっても3歳児のような怒り方をするのはまずいです。他人は親じゃないから、望むようにしてくれない方が当然だと考えられるようになりましょう。

質問

質問に答えてもらえないと「無視された」と言って怒るのも自己愛憤怒です。ひどいことを「された」のだから怒っていいんじゃないかと思うでしょうが、返事を「してくれない」というのが本質です。天皇、総理大臣、知事、市長、芸能人なんかに手紙を送っても返事なんか返ってこないことは知っているはずなのに、身近な人に対しては、質問したら答えてもらえるものだと勘違いしています。質問に対しては答えてもらえないのが普通で、答えてもらえたらありがたいという考え方にしていきましょう。

夫婦関係

妻が夫に、「何もしてくれない」、「何も言ってくれない」と怒るのも自己愛憤怒です。逆に、夫が妻に「どうして俺の言っていることがわからないんだ!」と怒るのも自己愛憤怒です。特に夫から妻への自己愛憤怒は力関係でDVという形になりやすいので注意しなくてはなりません。

「お前の暗い顔が、俺をイラつかせるんだ!」、「何度言ってもわからないなら、怒るしかないだろう?!」、「俺がこんなに説明してやっているのに、お前は全くわかろうとしない」、「俺のことが大事なら、なんだってできるはずだろう?」そんな風に、怒りを他人のせいにしてはいけません。怒りは相手に引き起こされるものではなく、自分が生み出しているものだと認識することが大事です。

職場

「お前のことを思って、厳しく言ってやってるんだぞ!」なんていう上司の怒りも自己愛憤怒です。こんなにしてやってるのに、なんであいつはわからないんだ。恩を仇で返すような真似しやがって。本当は、きっと寂しいのでしょうが、パワハラとなり、より一層孤立してしまいます。

まとめると自己愛憤怒は大切にされていないと感じた時の怒り

表面的には自分の思い通りにいかなくて怒っている感じですが、内側では大切にされていないと感じて傷ついているのが自己愛憤怒というわけです。現実は、思い通りにいかないことだらけなので、自己愛憤怒という特徴を持っている人達は、しょっちゅう傷ついているということです。他人から大切にされようとばかりせず、カウンセリングで自分が自分を大切にしていく術を身につけていきましょう。


これだけ丁寧に説明しても、「わかりました。じゃあ、私はどんなに辛くても怒っちゃいけないんですね」と言い返してくるお母さんがたまにいます。まったく、わかっていません。理解できるまでお付き合いしますので、途中で放り投げずにカウンセリングを続けていきましょう。