認知行動療法 CBT(1)コラム法

強い感情が湧いてしまい苦しい時に、考え方を変えて、気持ちを和らげる方法です。認知行動療法では7コラム法が有名かもしれませんが、5コラム法で十分効果があります。パニック障害を想定して説明します。

事実を抜き出す

ここは「出来事や状況を書き出す」と書いてある認知行動療法の本が多く、それ以上詳しく書かれているものがあまりありませんが、その後を左右する大切なところです。実際にクライエントに認知行動療法のワークをやってもらうと、この段階でつまづく人も多いです。「事実を抜き出す」と意識したほうが、後に反論しやすくなるので、ここで手を抜かない方がよいかと思います。3つの文章をまず見比べてください。

  1. 前から電車に乗ると近くの人からなんて思われてるのか気になって気になって、不安になって心臓がバクバクして足もガクガクしてしまうのはどうしてなんだろう。
  2. 電車に乗ると不安になる。
  3. ここ1か月ほど、満員の通勤電車に乗ると、降りるまでの10分間不安な気持ちが続く。

3つの文章は同じ状態のことですが、だいぶ書き方が違いますね。1つ目は、冗長で擬音が入っていて、最後が疑問形で終わっているので、事実っぽくありません。2つ目は、確かに事実ですが、情報が少なすぎます。もう少し5W1Hが入っていた方がよいです。3つ目が、数字や期間を入れた、過不足があまりない事実の書き方です。慣れないうちはここまで書けなくてもかまいませんが、意識して練習していると、主観的な出来事ではなく客観的な事実が書き出せるようになっていきます。これがうまくなると、次の感情を点数化する段階で、すでに気持ちが落ち着いてしまったりします。「満員のときだけか」や「10分程度のことか」と書きながら気がついたりするからです。今回は、2つ目のシンプルな例で話を進めたいと思います。

感情を点数化する

点でも%でもどちらでもいいです。例えば、不安なら、寝る前くらい安心している状態を0%、取り乱してしまうくらい不安な状態を100%と考えて、書きだした事実に含まれる不安が何%くらいなのか数値化します。気持ちとしては、不安100%と言いたいところでしょうが、実際に取り乱していないので、不安90%くらいにしておきましょう。なんでもかんでも100%にするのではなく、自分の気持ちの程度をゆっくり把握することが大切です。感情を捉えるのが上手な人は、86%いや87%くらいかな、とか一桁まで言います。

自動思考を把握する

ここはすぐにできる人とできない人に分かれるところです。強い不安を感じていたとき、頭の中で自分が言っていたことを思い出す作業です。引き続き電車での不安を例にします。その時考えていたことは、「やばい、もう無理。絶対無理。死ぬ。あー、絶対変な奴だと(周りに)思われてる。でも降りるわけにはいかない、会社に遅れるし、やばい。でも、もうちょっとで着く」といったところでしょうか。この中で、意味を持った自動思考は、「絶対変な奴だと周りに思われている」と「会社に遅れるから降りるわけにはいかない」、「もうちょっとで着く」です。

その中で、強い不安を引き起こしたであろう可能性の強い考えを探します。この場合はおそらく 「絶対変な奴だと周りに思われている」 か「会社に遅れるから降りるわけにはいかない」のどちらかでしょう。この2つに自分で反論を加えていくことが、認知行動療法のポイントです。カウンセラーに反論してもらっても効果はありません。

余裕があれば、自動思考の根拠まで書けるともっといいのですが、あまり根拠がちゃんと書き出せる人に会ったことがありません。効果は多少減りますが、進みが悪くなるくらいなら根拠を書くのは飛ばしてしまってもいいと思います。今回の場合、「絶対変な奴だと周りに思われている」の根拠は、例えば「汗を書いていたから」で、「会社に遅れるから降りるわけにはいかない」の根拠は、例えば「遅刻は社会人としてありえないから」みたいな感じです。

強い負の感情を引き起こす自動思考には、認知の歪みというものが含まれている場合が多いです。自動思考をつかまえる際のヒントになるので覚えておいた方がよいです。

反論を試みる

正確には反証です。ただ言い返すのではなく、証拠を持って反論するということです。まず「絶対変な奴だと周りに思われている」という考えに言い返していきましょう。

はじめに、この文章とは反対の意味になるように「変な奴だと周りが思っているとは限らない」と書き出します。そして「なぜなら」をつけて、そこから先の文章を自分で完成させます。まとめると「変な奴だと周りが思っているとは限らない、なぜなら」です。

なぜなら「誰も自分のことを見てはいなかったから」とか、「周りからは具合が悪いように見えたかもしれないから」と続けられたら成功です。

もう一つの「会社に遅れるから降りるわけにはいかない」もやってみましょう。「会社に遅れるけど降りてもいい、なぜなら」さて、どう続けますか?「体調不良で遅刻することは誰にでもあるから」や「降りたら会社に電話して、事情を説明して謝ればいいから」、他にもあると思いますが、その辺のことが言えれば成功でしょう。

一方「降りても会社には遅れないかもしれないから」というのは反証になっていないのでダメです。前提条件を覆しては反証にならないのです。これがわからない人にはわからないらしいのです。「会社に遅れるけど降りてもいい、なぜなら、降りても会社には遅れないかもしれないから」では日本語がおかしいのですが、おかしいことがわからない人に、どこがおかしいのかこれ以上説明する術を現在持っていません。

余力があれば、自動思考と反証をまとめておくとよいです。「会社に遅れないに越したことはないけど、あとで事情を説明して謝ればいいので、不安が強い時には電車を降りて遅刻してもいい」といった内容になれば、適応的思考といえます。これを、電車に乗る前に唱えましょう。長いけど。

感情を再点数化する

さて、ここまで取り組んだ時点で、どのくらい電車に乗ることにまだ不安が残っているか、改めて点数をつけます。今回の内容なら、不安50%程度に低下していればいい方なんじゃないかと思います。決して0%になるようなものではないのです。じゃああんまり意味ないじゃん、と考えて取り組まないといつまで経ってもうまく考えられるようにはなりません。頭の中はいつだって、できていると錯覚するものです。紙に書き出せるかどうかが大事なんです。テストで間違えたときに「あー、これわかってたんだけどなー」では通用しないのと同じです。

思考記録表をつけよう

正確には、非機能的思考記録表です。呼び方はどっちでもいいですが、紙1枚で全体が見えるようにしておくのが大切です。書いてきてくれたら、カウンセラーは、クライエントがコラム法にうまく取り組めているかどうかチェックします。さらに、これをファイリングしていくと、自分の傾向がとてもよく見えるようになりますよ。

思考記録表

事実
・電車に乗ると不安になる。

感情の点数化
・不安90%

自動思考
・絶対変な奴だと周りに思われている。
・会社に遅れるから降りるわけにはいかない。

反証(適応的思考)
・変な奴だとは思われたとは限らない、なぜなら、 周りからは具合が悪いように見えたかもしれないから。
・会社に遅れるけど降りてもいい、なぜなら、 降りたら会社に電話して事情を説明して謝ればいいから。

感情の再点数化
不安50%