認知行動療法 CBT(2)認知の歪み

認知の歪みは、狭い範囲では認知行動療法によって改善を試みますが、広くはカウンセリングの対話の中で、カウンセラーがクライエントの言葉を拾い返して、クライエントの気づきを促すといった感じになります。認知の歪みは口癖によく現れます。

白黒思考

all-or-nothing thinking

全か無か思考、0か100か思考、悉無律思考とも言われます。2つのものを混ぜられない心の働きをスプリッティング(分裂)とも言います。

カウンセリングでは、グレーゾーンを受け止められるように、あるいは、自らグレーゾーンを使いこなせるように、会話の中の曖昧さに慣れていく取り組みをします。世の中を二分割して見るのではなく、真ん中に可もなく不可もないゾーンなどを設け、まずは三分割して見られるようにします。認知行動療法では、極端な2つの考えで悩むのではなく、折衷案や第三案を生み出せるような思考方法を身につけていきます。

べき思考

shoud statements / musturbation

musturbationのuは誤字ではないです。論理療法・論理情動行動療法REBTの創始者アルバート・エリスはユーモアのある方のようで、mustとmasturbationを掛け合わせて造語にしました。下ネタですよ。やはり、心理職には時にユーモアが重要なことなんだと感じます。

すべき思考、ねばならない思考とも言われます。「〇〇しなきゃダメですよね」といった感じで、ダメという言葉ともセットになりやすいです。

カウンセリングでは、カウンセラーがクライエントの話の中に出てきた「〇〇すべき」という言葉を拾って返します。次第に、クライエント自身が「あ、また、すべきって言っちゃった」と気がついて自分で言い換えられるようになります。認知行動療法では、「〇〇した方がよいけれど、かならずしなければいけないわけではない」という言い方に修正をします。

マイナス思考

disqualifying the positive

通常のマイナス思考とは異なります。プラスの出来事を否定してマイナス化するというニュアンスです。例えば、人に褒められたら裏があると考えます。相手は「こいつは褒めておけば扱いやすい」と考えて、思ってもいないのに、自分を褒めていい気分にさせようとしているんじゃないかと考えたりします。あらゆる良いことが受け止められず、悪いことの予兆のように感じるので、大変苦しい考え方です。

カウンセリングでは、表面的な言葉そのものを大事にしていきます。自分の想像の方にすぐに行かず、出された言葉を言葉の意味のまま受け止める練習をします。

自己関連づけ

personalization

個人化、パーソナライゼーション、誤った自己責任化などとも言われます。直接自分に起きたことではないことでも、自分のせいなんじゃないかと考えることです。すぐに思い当たることはないのに、あの人が今日機嫌悪いのは、私が何かしてしまったからなんじゃないかと考えたりします。

認知行動療法では、その出来事は自分とは無関係であるといった捉え方もできるようにしていきます。ただ、人のせいにばかりするようになってはまずいので、人間以外の要因、例えば状況のせいだったり、運が悪かったという考え方も身につけ、原因が1つではない可能性を考えていけるようにします。

部分的焦点づけ

mental filter

心のフィルター、選択的抽象化と言われているものです。その言葉がわかりづらいので、ここでは大幅に言葉を変えてあります。全体的にはうまくいっているのに、うまくいかなかった部分の方に意識が向きすぎてしまうことです。

カウンセリングや認知行動療法では、全体と部分の関係を図示したり、その両方を平等に意識できるように取り組んでいきます。

感情的推論

emotional reasoning

感情の理由づけ、感情的決めつけと言われています。状況に合わせた判断ができず、自分の感覚や感情が根拠になってしまう考え方です。ただの自分の好みが、良し悪しに変換されてしまう感じです。「あなたは絶対、青い服を着た方がいい!」なんて友達に言ってませんか?それって、あなたのただの好みですよ。感情と思考の区別をつけていきましょう。

認知行動療法では、出来事、感情、自動思考、根拠や反証といった事実に基づく考え方の基本から取り組むので、感情と思考の区別がつくようになります。カウンセリングでは、「思った」という表現を、「感じた」と「考えた」に分けさせたりしています。

飛躍的推論

jumping to conclusions

結論の飛躍と言われています。「仕事をクビになった、もう人生おしまいだ」といった考え方のことです。おしまいではありません、就職活動をしましょう。「簡単に言わないでください!」と言われますが、簡単に「人生おしまいだ」と言っているのはそちらですよ。「そうですね、おしまいかもしれませんね」とは言えません。そう言いたい気持ちはわかるし、言っても構いませんが、諦めずに一緒に考えていきましょう。

先読み

the fortune teller error

これに充てられている英語が好きです。占い師の間違い。未来なんて誰にも当てられないんですよ。占いは、バーナム効果とプラシーボ効果(プラセボ効果)でほとんどの場合、説明がつきます。しかし、人はそれでも心が弱い時には、確実な未来の予言を欲しがります。まだまだ占いの人気は絶えず、カウンセリングに置き換わる時は遠そうです。

話が逸れました。先読みは、「仕事をクビになった」という出来事に始まり、「この先仕事が見つからない」「お金がなくなる」「2度と浮上できない」といった流れで「人生おしまいだ」みたいな結論になります。カウンセリングや認知行動療法では、歪んだ思考が間にいくつも挟まっていることの修正に取り組みます。

深読み

mind reading

心の読み過ぎ、読心術と言われています。人がどう思っているのか想像しすぎることです。自分が想像したことが、次の考えの前提になってしまうことが問題です。「自分の言葉で相手は傷ついたんじゃないか」から「傷ついたなら、もう私に会いたくないと思ってるんじゃないか」、「私に傷つけられたからもう会いたくないって、他の友達にも言うつもりなんじゃないか」といった感じです。

カウンセリングでは、それは相手が考えていることではなく、自分が逆の立場の時に考えがちなものだと気がついてもらいます。相手の気持ちを想像しているようでいて、全く相手のことを見ていません。自分と対面しているのです。これは対人恐怖症の心理に強く見られます。

大評価・小評価

magnification and minimization

拡大解釈・過小評価と言われています。自分については低く、他人については高く評価するのが特徴です。自分についての場合、成功については小さく、失敗については大きく捉えます。

カウンセリングでは、自分と他人について、評価基準を変えないような一貫した考え方を身につけてもらいます。だいたい、他人への評価基準の方が現実的で、自分への評価基準が歪んでいることがほとんどです。他人に言うことは、自分にも言えるようになってもらいます。ダブルスタンダード(二つの基準)は、ダブルバインド(二重拘束)につながり、精神衛生上よくありません。変えていきましょう。

度の一般化

overgeneralization

一般化のしすぎ、行き過ぎた一般化と言われています。いつも、みんな、絶対、などの言葉に現れます。「人って」「日本人って」「男って」「B型って」「一人っ子って」これらは、範囲こそ違いますが、全て過度の一般化です。自分が会った数人から、全体を推測するのはやめましょう。

ただ、意図的に例外をいちいち挙げるより、おおまかにそう表現したほうがよい場合もあります。自覚できているかどうかが大事だと思います。例えば、このサイトでもそうです。逐一、例外について記載していては文章量が増大になってしまいます。ゆえに、一般化してしまっている記載もありますが、その辺は汲み取っていただけたらと思います。

認知行動療法では、〇〇全員ではないな、いつもではないな、絶対ではないなと言った感じに修正します。

レッテル貼り

labeling and mislabeling

認知の歪みの合わせ技といった感じです。白黒思考が影響していたり、感情的推論が関係していることも多いです。過度の一般化が固定される場合もあるし、過大評価・過小評価が固定した結果という場合もあります。本来多面的な側面を持つ一人の人を、たった一つの象徴的な特徴で言い表そうとする行為です。日常でつけるあだ名で、悪口のニュアンスが強いものはレッテル貼りという側面があります。一度レッテルを貼ると矛盾した情報は意識されなくなり、現実的には捉えられなくなります。つけられる人に問題があるのではなく、つける側に複雑さを抱えておけないといった問題があります。

カウンセリングや認知行動療法では、貼ってしまったレッテルを一度はがして、あらためて、特徴を一つ一つ挙げなおしていく作業をしたりします。

認知の歪みの修正方法のポイント

1つの出来事に対して、プラスの側面とマイナスの側面の両方を意識することを心がけます。両方見えるようになったら、マイナスの側面を先に、プラスの側面を後にした文章が書けると気分が落ちづらくなります。

  • 成功したところもあるけど失敗したところもある。
  • 失敗したところもあるけど成功したところもある。

同じ内容の文章ですが、上は失敗したことを言いたい時で、下は成功したことが言いたい時の言い方です。人は後半の内容が重要だと感じやすく、それによって気分が引っ張られるのです。「まぁ良いところもあるっていうのは、わかってるんですけどねー」という人は、内容は把握しているけど、言い回しが下手だったりするということです。話してみたり書いてみたりしないと、頭の中でどんな言い回しになっているのか、捉えることはできません。カウンセリングや認知行動療法をぜひ利用してみてください。

情報は読むのではなく覚えるもの

日頃からクライエントには、「本は読むんじゃなくて、覚えるものなんだよ」とお伝えしています。心理学の本をたくさん読んでいるのに効果がない方がけっこういらっしゃるからです。このサイトは本ではなく情報なので見出しを変えましたが、ただ読んで、へぇ~なるほどーで終わってはもったいないということが言いたいのです。

覚えて、日常的に役立ててほしいので、覚えやすいように、認知の歪みの項目の名前と順番を少し変更してあります。赤い文字に変えてまとめやすくしておきました。思考が3つ、づけ2つ、推論2つ、過が2つとレッテル貼り1つ。10個の単体を覚えるより、5個のカテゴリーにして覚えたほうが覚えやすく、これをチャンキング、チャンク化(情報を塊にする)すると言います。覚えやすい数は、マジックナンバー7±2と言われていましたが、どうやら実際には4±1くらいのようです。

自分で意識する場合には、項目名は重要ではないので、もっと覚えやすいように変更してしまって構わないと思います。レッテルづけに変えて、づけ3で覚えるとか、感情の理由づけを入れて、づけ4にしてもいいと思います。とにかく10個覚えることがスタートなんです。この先の人生でずっと使っていける10個なので、費用対効果はかなり高いですよ。逆に、認知の歪みをカウンセラーに質問した時、挙げられないカウンセラーは認知行動療法に詳しくないので見極める時に試してみてください。