横浜市で自殺予防を考える

死にたい方への声かけは「死なないで」ではなく「生きていて」

横浜市都筑区にあるカウンセリングルームセンター南では、自殺対策と地域支援に力を入れています。大きな施設ではありませんので、身近なところで少しでも多くの方の悩みの相談に乗れればと思っています。

カウンセリングでは、死にたいと話される方がかなりいます。その時に気をつけていることは、もちろん死にたい気持ちをよく聴き大切にもしますが、「死なないで」という声かけや約束をさせないことです。カウンセラーとしては、一度会ってしまったら「生きていてほしい」と思います。正直にその気持ちを伝えます。約束にはあまり効果がありません。また死にたい話でも構いません。とにかく、次に会うまで生きていてほしいのです。

ピンとこない方も多いかもしれませんが、実際にカウンセラーに「生きていて」と言われたクライエントの中には、「死なないで」ではなくはじめて「生きていて」と言われたと、心に響く方がいます。「死なないで」と言われると、「死なれても迷惑だから死なないで」と言われているような気になっていて、別にうれしくなかったと。人に生きていてほしいと言われたことに驚いたそうです。まっすぐな言葉は人に届くことがあります。

横浜市自殺統計から考える

横浜市自殺統計 – 人数

横浜市の人口は、約375万人、世帯数は約170万世帯に及びます(2020年/令和2年2月現在) 。2016年の統計に遡ると、横浜市の自殺者数は507人です。2008年時の自殺者数764人に比べて3割ほど減少しています。自殺対策に力を入れてきた横浜市の取り組みは素晴らしいと思います。近年は、自殺予防のためのゲートキーパーを育成する方針も打ち出されています。自殺を考える人の周囲の人の関わり方も大切だということです。カウンセリングルームセンター南でも自殺に関する出前講座という点で支援者の育成に協力をさせていただいています。

横浜市自殺統計 – 年代

約500人の内、40代が最も多く、50代と合わせて全体の4割以上を占めています。この年代の方々には、まだカウンセリングや人に相談するということが浸透していません。もう少し下の世代になると、スクールカウンセラーが当たり前に学校にいた世代になり、カウンセリングや相談への敷居は低くなっていると感じます。40、50代の方には、いまだに身内のことは身内で考えるといった姿勢がみられます。日本には恥の文化が根強く、恥を選ぶくらいなら、罪を犯すといった形の不幸な事件も起きています。

横浜市自殺統計 – 男女比

男性が7割を占めています。相談に来る方の男女差は3対7なので、やはり相談に行かないことで孤立無援感が高まり死を選ぶ方が多くなってしまうのではないかと思います。

横浜市自殺統計 – 動機

男女とも健康問題を苦にした自殺が多いです。次いで、男性は仕事や経済的な問題、女性は家庭問題を動機とすることが多いようです。半数以上が無職であり、社会な関わりが減っている時には自殺のリスクが高まります。不登校・ひきこもりの方の家族は早めに相談にいらしてください。

横浜市自殺統計 – 時間・場所

月曜日が20%と最も多く、日曜日が10%と最も低くなります。自宅で首を吊る場合が多く、6割の方が遺書を書き残しています。自宅での発見率も6割以上です。発見者となる家族の心的外傷は計り知れません。発見者が子供の場合には、特に早急な対応が必要です。決して平気そうに過ごしているからと放置しないでください。遺族の方は悲しみでいっぱいになり、動くこともままならないでしょうが、必ずカウンセリングを受けてトラウマケアをしてください。

カウンセリングでできること

カウンセリングルームセンター南が究極的に大事にしていることは、問題解決ではなく、命を守ることです。神奈川県全域にまでは力が及びませんので、せめて、横浜市の500人の方だけでも自殺を選ばないで済むように協力することです。通われた方、通われている方にはわかってもらえると思いますが、問題が解決しなくたって、いや、問題が解決しないからこそ、人が心と心でつながるというのは本当に大切なことですよね。周りの人にもカウンセリングを勧めてください。それがカウンセリングに通われた方ができる、周囲の方の自殺予防です。

もちろん、カウンセリングを通して、悩みや問題を解決することのお手伝いはします。しかし、実際には何をしても、どうやっても悩みや問題が解決できないこともあります。時が過ぎるのをただ待たなくてはならないこともあります。臨床心理士の臨床には、死のそばに居続けるという意味も込められています。カウンセラーは死を遠ざけず、死から逃げません。死にたい気持ち、死をどう考えているか、話に来てください。