トラウマPTSDへのカウンセリング

心的外傷後ストレス障害PTSDを先にお読みください。

トラウマとは

トラウマとは、心的外傷、つまり現実世界の出来事によって外側からつけられてしまった心の傷のことです。日常的にトラウマと表現される時は、その原因となる出来事は大小を問いません。PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断される場合のトラウマは、ほとんど多くの人にとって耐え難い苦痛をもたらす災害や事件・事故などに関するものと限定されています。適応障害と診断される場合のトラウマは、人によって苦痛の程度が異なるような個人の主観的体験を指す場合が多いです。または、現在進行形の場合はストレスと呼ばれ、急性ストレス反応や適応障害と診断され、ストレスとなる出来事がなくなったにも関わらず症状が続く場合には、トラウマと呼び替えられPTSDと診断されるといった感じです。

カウンセリングにおいて、トラウマの治療的回復には3段階あります。

  • ①身体的安全および心理的安全の確保
  • ②被害体験の想起と服喪追悼(悲しむこと)
  • ③記憶の統合および通常生活

また、忘却への憧れと諦めの3段階という経過を辿ります。

  • ①「忘れたい」
  • ②「忘れたくても忘れられない」
  • ③「忘れずにいるしかない、忘れずにいよう」

外傷性記憶の言語化

トラウマとなった出来事の記憶は、そのままの形では辛すぎて覚えていられず、時系列がバラバラになったり、映像が断片化されます。そういった記憶を外傷性記憶と言います。自分の人生に起きたこととして認めたくないという心の働きによるものでしょう。その外傷性記憶を、自分の人生の中にきちんと戻す作業がトラウマに対するカウンセリングであると言えます。

外傷性記憶は、確実に安全な時間と空間と人間(カウンセラー)のもとで、被害者自身が想起してゆくことが大切です。いきなりトラウマとなった出来事を根掘り葉掘り尋ねて答えさせてはいけません。インテーク面接でトラウマを抱えていることに気がついたら、出来事の詳細は話さないようにカウンセラーの方から止める必要さえあります。

被害者自身がトラウマを表現する言葉を見つけていく作業は、ゆっくりと丁寧に時間をかけて行われる必要があります。精神科の数分の診療ではおそらく時間的に取り組めないので、カウンセリングが最適です。トラウマを言葉にしていく作業においては、自分の行動全てが正しかったと極端に肯定するのではなく、もしかしたら自分にも落ち度があったかもしれない、他にもっと良い方法があったのかもしれない、でも、極限状態の自分はそうするしかなかったんだ、と自分で自分を許していく過程が重要になります。そして、十分に悲しみ、涙を流すことが必要です。

外傷性記憶を自発的に言語化できるようになると、その記憶は被害者自身でコントロールできるようになり、圧倒される感覚は消失していきます。同時に、フラッシュバックが起きる頻度が減少します。そうして、少しずつトラウマに支配されずに日常生活が送れるようになっていきます。

そのほか、PTSDに対する治療法の一つに曝露療法というものがあるので紹介します。

曝露ばくろ療法(エクスポージャー療法)

曝露療法は、簡単に言うと慣れさせるという方法です。トラウマを少し想起させては感情が収まるのを待ち、また少し想起させて感情が収まるのを待ち、といったことを繰り返します。曝露療法には、想像でトラウマを想起させるやり方と、トラウマを想起させる実際の物に触れたり、トラウマとなった場所に行かせたりする2つの方法があります。カウンセリングルームセンター南では、カウンセリングルーム内にトラウマとなってしまった刃物などを持ち込むことや、実際の場所にカウンセラーが同行するシステムがないので、想像による曝露療法のみとなります。あまり、曝露療法をしましょう、と構えてはじめることはないのですが、自然とトラウマについて語られる場合には、カウンセラーは曝露療法を念頭においてカウンセリングを行っていたりします。話している内にフラッシュバックに圧倒されないように、今、話している私はここにいる、というのを忘れないように体をタッピングさせながら語らせることもあります。

タッピング技法

体へのタッピングは、EMDR(※眼球運動を伴わせたトラウマ想起方法)という手法から派生した技法で、最近ではバタフライハグという形で広まっているようです。両手を体の前で交差させ、左右の肩を交互に反対の手でポンポンとリズミカルに叩く一人でできる方法です。科学的な効果はまだ不明ですが、個人的にバタフライハグを試してみたところ、トラウマの想起に拮抗するかなりの効果が期待できそうな気がしました。抱きしめられている感じというか、背中をぽんぽんとたたかれて慰めてもらっている感じです。バタフライハグの形は大きな発見だと思いますが、技法というほどのものではなく、誰でも安全に行えるものです。ただ、自分はここにいていいんだというような安心する効果が大きすぎて、心が弱っている時には泣き崩れてしまいそうになる感じがします。

スクリーン技法

頭の中でトラウマを映画のスクリーンで上映するイメージで語らせる方法もあります。その際、自分は観客席からスクリーンを眺めている距離感のイメージです。それも、フラッシュバックに飲み込まれすぎないようにするための方法です。

いずれの場合も、トラウマとなる出来事は過去のものであり、今起きていることだと錯覚させないように配慮している点がポイントです。カウンセリングで悪化したとネットに書かれているものの何割かは、そういった知識を持たない傾聴だけのカウンセリングによって引き起こされたものではないかと思っています。