自傷行為へのカウンセリング

自傷行為の部位

自傷行為は、リストカットが代表的なものですが、手首以外を傷つける場合も多いです。だいたい手首への自傷が25%、アームカットと言われる上腕への自傷が20%、手のひら20%、手指15%、太もも10%です。全体でみるとリストカットの割合は4人に1人あるいは4回に1回という割合で、それほど高くはありません。その他の部位の自傷行為を見落とさないようにしましょう。

自傷行為の種類

道具を使うものでは、カッターナイフなどの刃物で皮膚を切る、アイスピックや針などで肉を刺す、ライターやタバコの火で皮膚を焼くなどがあります。注射器で血を抜くこともあるでしょう。10代後半から増え、手順などに慣れるにつれ、自傷行為は儀式的で強迫的な様相を呈してきます。

道具を使わないものでは、頭を壁などに打ちつける、体を拳で叩く、腕を噛むなどがあります。低年齢の子や知的障害や発達障害の方の自傷行為に多いです。

自傷行為の引き金は負の感情

自傷行為の引き金は、外的なストレスではありません。自分の内側に湧いてきた負の感情が原因で引き起こされます。負の感情は、嫌な出来事のあとだけでなく、楽しい出来事のあとで家に帰って一人になったときにも湧いてきたりします。また、何もしていなくても、過去のトラウマが蘇ってくれば負の感情に突然襲われるので、それをかき消そうとして自傷を行います。なので「どんな辛いことがあったの?」と聞くのはあまりセンスがよくありません。健常者にはわからない、楽しさの後にくる虚しさ、というものがあるということを知りましょう。

自傷行為は延命行為

負の感情に何もしないと、苦しくて発狂して死んでしまいそうなので、なんとか対処しなくてはなりません。そんな中、本人達がようやく見つけたものが自傷行為であり、「死にたい」と言っていることとは矛盾しますが、生き延びるために切っているという側面があります。「自傷行為なんてやめなさい」と伝えることは、本人達には「延命行為なんてやめて死んでしまいなさい」と聞こえているそうです。自傷行為を止められると、本人達が「じゃあ死ぬしかないですね」というのは、そういう心理からです。このような複雑な心理については、カウンセラーの中でも特に自傷行為やパーソナリティ障害に慣れている方でないと理解できていないようです。

自傷行為は覚醒と解離の両面

自傷による体の痛みで、精神的苦痛が和らぐ場合があります。生きている実感が希薄な時、痛みや血を見ることで自分が生きているということを実感できるタイプもいます。虚無感に飲み込まれないように現実的に目を覚ますという作用があるわけです。

その一方で、深い自傷は、肉体的な痛みを感じないばかりか、精神的な苦痛も全くなくし、記憶さえ残さないということを引き起こしたりします。それを解離と言います。自制が効いていない状態なので、深く切りすぎてしまったり、傷のケアがいい加減になったりしてしまい、命の危険にさらされてしまうこともあるので、こちらの場合は特に注意が必要です。

自傷行為者へのカウンセリング

成人以上で、道具を使う自傷行為の場合、ほとんどの方がパーソナリティ障害です。たまに重い精神疾患の方もいます。カウンセリングの方法は、パーソナリティ障害へのカウンセリングに準じ、ドロップアウトの危機を乗り越えて関係を続けていくことがテーマとなります。カウンセリング自体が負の感情を引き起こす原因になり、自傷行為が一時的に悪化することもあります。家族にとっては心配でしょうが、本人達がカウンセリングを辞めてしまわないようにサポートしてもらえたらと思います。自傷行為という行動化から、言語化による苦悩の解消を目指します。

10代の場合は、まだパーソナリティが固定化していないため一過性の場合も多く、パーソナリティ障害とは限りません。自傷は、アーティストやマンガ・アニメのキャラクター達の個性の一つになっている場合があり、憧れを持つ子供たちも数多く存在します。その辺の見極めをカウンセラーと一緒にしていきましょう。

自傷行為者の家族の相談

まずは、家族の抱えている辛さや本人に言えない言葉を表現してもらいます。口に出しておくのと出さないのとでは、ストレスの溜まり方が全然違うからです。自傷行為者だけをカウンセリングに来させても、家族が無理解ならばカウンセリングの効果は一進一退となります。家族が受け皿として十分に機能できるように、まずは家族自身の心の状態をよくしていきましょう。

そのうえで、自傷行為の仕組みや心理を理解してもらいます。また、養育上不適切だった関わり方があれば振り返り、そのことを本人達と共有する形を模索します。育て方が悪かったと大雑把に謝罪してもうまくはいきません。どういう言葉が本人達を苦しめてきたのか、辛いかもしれませんが、具体的に一緒に振り返り、変えられるところは変えていきましょう。