パーソナリティ障害のカウンセリング
カウンセリング開始
まずカウンセラーがすることは、相談者の体験している世界を同じように味わってみようとすることです。もちろん、全く同じ体験はできないので、安易に肯定することはできません。できないながらも、本人が苦しんでいる気持ちの理解を試みるという姿勢が大切で、パーソナリティ障害の方にとっては、それは日常社会ではしてもらえなかった得がたい経験となります。
世の中全ての人が敵ではなく、味方になろうとしてくれる人もいるのかもしれない。そう感じてもらえることが第一歩です。パーソナリティ障害の方の話の事実確認ばかりして、矛盾を追及することに終始すると、良い関係は築けません。家族や周囲の人が一生懸命理屈を説明しても、効果がなかったのはそのためです。
次第に、相談者の体験を中心に据えつつも、本人と周囲の方が疲弊し過ぎない対応方法をカウンセリングでは模索していきます。ご家族の方がカウンセリングで本人への接し方を見直していくことも大変有効です。
カウンセリングの目標
自他の区別をつけられるようになることを大きな目標とする場合が多いです。ある物事に対して、自分が考えていることと他人が考えていることが同じでなくても落ち着いていられるようになったり、他人の権利を理解したうえで相手を尊重し、一方で自分の権利も理解しつつ無理やり行使しないようになるといった感じです。不快な状況に対して感情的になって行動するのではなく、一方でただ単に我慢するわけでもなく、自分と他人とが妥協しあえる折衷案を模索していけるような態度を目指します。
自分の状態をよく知ってもらうために、カウンセラーはパーソナリティ障害の特徴について心理教育を行うことも多いです。パーソナリティ障害のカウンセリングでは、傾聴のみということは望ましくありません。パーソナリティ障害の方は、自己の内面を振り返る、いわゆる内省するということが苦手で、傾聴のみのカウンセリングでは気づきがあまり起こらないからです。ただ、本人の主観としては気づきがあるようで、「私、気づいたんです」とカウンセリングの冒頭で話し始めることもあるにはあるのですが、それはしばしば本物ではなく、カウンセラーに良いクライエントと思われようとする表面的なものであったりします。
ドロップアウトの危機を乗り越えよう
パーソナリティ障害のカウンセリングでは、必ずと言っていいほど、ドロップアウト(中断)の危機が訪れます。それは単純にカウンセリングがうまくいっていないからというわけではなく、むしろ停滞せずにカウンセリングが進行している証拠とさえ言えます。パーソナリティ障害の方がカウンセリングの初期に抱いた過剰な理想が崩れ、現実を見始めたという形の表れであることが多いからです。パーソナリティ障害の方は、思い通りにいかない現実が苦しくてたまらないのです。その苦しさから逃れるために、もっと自分に合った理想の場所や人を探し求めてしまい、関係を維持できないという症状になるのです。
カウンセラーとの間でもそれは例外なく起きることであり、カウンセラーに対して攻撃的になる方もけっこういます。受付でカウンセラーに対する不満を言ったり、苦情の電話をかけたり、あるいは、通っている病院でカウンセリングルームセンター南のことを悪く言ったりします。カウンセラーにとって悪評を振りまかれてしまうことは大変辛いことですが、そこを耐えてこそのパーソナリティ障害支援です。ここでいかに腹を割って話し合えるか、どう切り抜けるかで、パーソナリティ障害の方は次のステップに進むことができます。一方的に、傷けられた!と言って辞めてしまうのではなく、ドロップアウトの危機を乗り越えてカウンセラーとの関係を維持できたら、対人関係にほんの少しだけ自信がついたりします。