人間関係・対人関係の相談(1)自己開示・雑談

なるべく自分のことは知られたくない、でも相手のことは知りたい、相手が教えてくれたら自分も教えられるんだけど───。雑談が苦手で、他人から拒絶されることが怖い、絶対受け入れてもらえると思えるまで話せない、という悩みを抱えている人はけっこう多いものです。それが普通じゃないの?と思っているならば、それは違います。そういう気持ちの人は、他人や社会に対する基本的信頼感が育まれていないということです。生き辛いはずです。カウンセリングでコミュニケーションの取り方を練習しましょう。

隠しているから人間関係が築けない

それってトラウマ?

子供の内は、失敗したことを恥ずかしくて人に知られたくないと思うのは当然のことです。小学校で漏らしてしまったことを、中学生になったからといって同級生には話せません。時があまり経っていないことや、精神的に未発達なので、隠してしまうのもやむを得ないことだと思います。しかし、20代、30代になっても小学生の頃の失敗を話せないとしたら、大人として健全とは言えません。それはトラウマ記憶と言われ、解消されることが望ましいものです。トラウマ記憶は触れられると生々しく辛さが蘇ってきてしまうので、その周辺の話題にも触れないように、なるべくプライベートな話はしないという形になりやすいです。すると、人間関係が希薄になりやすく、親しい人があまりいないということに繋がってしまいます。

健全な人は隠し事が少ない?

健全な大人は、隠し事が少ないです。隠し事が少ないということは裏表も少ないということです。ありのままの自分でいられる人は、比較的楽に生きていけます。健全な大人は、自覚しているかどうかはわかりませんが、(1)昔は隠していたことを今なら話せる、(2)新しい隠し事は増やさない、という2点を備えています。隠し事を増やさないためには、恥ずかしいことでも、すぐにその場でオープンにしてしまうということです。そんなの無理ですよ、という人は、精神的に病気じゃなくてもカウンセリングに来た方がいい人です。もっと楽に生きられますよ。隠し事をしたまま生きるのは、犯罪者・逃亡者のような生き方に似てしまいます。

何を隠しているの?

今現在、隠していることがある人は、会話をしていて、それを見抜かれてしまうことを恐れています。例えば、不登校・ひきこもりである(または昔そうだった、あるいは子供がそういう状態である)ことや、性行為が未経験であること、2次元の女の子が好きであることや、ボーイズラブ・腐女子系のマンガやアニメにはまっていること、浮気や不倫をしていること、離婚したこと等です。知られてしまって、相手からバカにされたり、言いふらされたりすることが怖いわけです。でも本当は誰かとその話がしたい、だから、ネットに書き込んだり読んだりするわけですね。

インターネット・SNSの人間関係

インターネットでは、匿名のまま自分の嗜好をオープンにして、人と繋がることができます。相手に受け入れられ、仲良くなってから、個人情報を明かすという順番が叶うようになったのです。孤立しているより全然マシなので、どんどん利用して自己開示をしていったらいいと思います。

ただし、リツイートなど拡散を中心にするのはあまりよくありません。それは自己開示ではなく、他人からの情報です。それでは虎の威を借る狐になってしまいます。自分の上を多くの人が通過していっているだけです。自分がリツイートされる側になれるよう、自分の言葉を見つけていきましょう。

カウンセラーは引きません

一方で、インターネット・SNSでの自己開示だけでは、実際に所属している学校や職場の人間関係は希薄なままです。現実的な人間関係スキルは上達しません。受け入れられるかどうかわからない状態で、自分の嗜好をオープンにしていく練習もしていきましょう。まずはカウンセラーに受け入れてもらい、その後、カウンセラーと一緒に、どのように周囲に自己開示していくかタイミングや言い回しを考えていきます。大丈夫、カウンセラーはどんなにマニアックな嗜好でも受け入れますよ。エログロなんて大したことありません、死体の画像を見るのが好きですという人の話さえ乗れますから。

自己開示が人間関係を築く

固有名詞を挙げよう

会話の中で、自分が好きなマンガやアニメ、ゲームの固有名詞を挙げるようにしましょう。回避性パーソナリティ障害の方に特に多いのですが、カウンセラーが「何のゲームをやっているの?」と聞いたとき、「〇〇系のゲームをやっていて」とか、とにかくぼかしたりはぐらかして、特定されないようにすることが多いのです。「言ってもわからないと思って」言わなかったとたいてい言いますが、本当に心の内はそうでしょうか。固有名詞を挙げて否定されたり、見下されたり、陰キャだと思われたくないからではないでしょうか。でも、そういうリスクを冒して自己開示した結果、「あ、俺も好き」、「私も読んでる」といった反応が得られたら嬉しいとは思いませんか?あるいは、知らなかった相手が「この間言ってたマンガ読んでみたよ、面白かった」と言ってくれたらどんなに嬉しいでしょう。人に受け入れられる可能性を自ら狭くしてしまってはだめです。見下されたり、言いふらされたり、状況が悪化したら、それはその時、またカウンセリングで考えましょう。めったにそんなことはありませんが。

失敗談を話そう

自分の嗜好以外には、失敗談が比較的他人に受け入れてもらいやすいです。自慢話を人に受け入れてもらうのは話術的に難しいので、失敗談をなるべく明るく話しましょう。重苦しいのはだめです。相談もよくないので、解決済みの失敗談がいいです。「昨日、うんこ踏んじゃってさー」くらいがちょうどよかったのですが、最近、外には犬のうんこがあんまりなくて踏めませんね。室内犬を飼っている人はあるあるエピソードかもしれませんが、ないのに嘘はいけません。

質問もしよう

自己開示が成功したからといって、常に自分の嗜好の話をするのはよくありません。例え相手の嗜好に興味がなくても、自分が話した時間と同じ分だけ聞きましょう。2人で10分話すなら持ち時間は5分ずつ、6人で2時間会って話すなら持ち時間は20分ずつとイメージしておきましょう。相手に聞かれた質問に答えたら、同じ質問を相手に返すとよいです。発達障害、特に自閉スペクトラム症(アスペルガー障害)の人は人と接する上でのマナーとして覚えておきましょう。

自己開示がなかなかできない内は、質問されるのを待つのではなく、積極的に自分が相手に質問してもよいです。聞かれたことを中途半端に暈したり、はぐらかしたりするよりマシです。海外の映画が日本で公開される時、日本に来た俳優にインタビュアーが質問する、そういった場面でどんな質問がされているか観察して覚えておきましょう。もしかしたら、質問する方が難しく、自己開示する気になるかもしれませんよ。