心配と不安の心理 – 不安症・不安障害

心配や不安はあらゆる精神疾患と結びつきます。日常的な影響が少ない場合は心配、日常生活に影響が出始めると不安と表現されます。不安が中心症状の場合には不安症・不安障害と診断されますが、不安は、うつ病、強迫性障害、パーソナリティ障害その他ほとんどの精神疾患でみられます。まずは、広く不安というものを見ていきましょう。

不安とは、未来のために今が犠牲になっている感情

不安は悪いものとは限りません。適度な不安は、練習をしたり努力をする原動力になります。危険を回避する行動をとることもできます。今すぐできる行動には有効な作用をもたらすのです。もし、不安がなければ、おそらく働かないし法律も守らないでしょう。その時々で、好きなように好きなことをするだけになってしまいます。

一方、強すぎる不安は、未来を確実に安心してより良く生きたいという、遠くを見据え過ぎた感情の裏返しです。にもかかわらず、今が苦しすぎて動けない、未来のために今が犠牲になっている感情、それが精神疾患における不安の正体です。さらに、救いようのないことに、今を犠牲にすると未来も犠牲になってしまうという、まったく本末転倒な感情です。

不安は漠然とした感情で、目の前にあるものに感じる恐怖とは分けて考えられています。はっきりとした理由が見つからなかったり、はっきりと言葉に表せなかったりします。なので、「何がそんなに不安なの?」という聞き方はセンスがないなと思います。何、と言えないから不安なんです。

不安は、あるはずのものが無いと気がついたときの感情

人は、端から無いもの、無くて当たり前のものに不安を感じたりしません。ふとあるはずのものが無いと気づいたときから突然不安は始まります。どうしよう、妻が一人しかいない、と二人目の妻がいないことに不安になる男性はいませんね。20代を謳歌していた男性が、ふと気がつくと29歳になっていた、いつの間にか友人の中で結婚していないのは自分一人。そんな時、将来に不安を感じてしまったりします。書いている途中に女性蔑視と言われそうだと気がついたので、例えを急遽男性に変えました。

逆に、無いはずのものが目の前にある時、人は恐怖を感じます。いるはずのない人がそこにいたら怖いですよね。何かが無いのが不安で、何かがあるときは不安どころではなく恐怖なのです。

不安に苦しんでいる人は、当たり前にあるはずと思っていた、無くなってしまったものが何なのか考えてみましょう。当たり前にずっと続くと思っていた結婚生活、しかし、ある時、ふと夫から愛されていないことに気がついてしまい、将来に不安を感じ始めてしまった。そんなことはないでしょうか?一人で不安に飲み込まれてしまわないように、カウンセリングにお越しください。

不安の9割は当たらない

不安の9割は当たらないと言われる意味は、ピンポイントで不安は的中しないということです。百発百中なら、それは預言者です。不安が当たると思っている人は、1つの出来事に対して10個の不安を考えるから、1つは当たって9個はずれるという形になっていることに気がついていません。これは、認知の歪みが関係します。こんなことも起きるんじゃないか、あんなことも起きるんじゃないかといくつも考えても、起きることは実際には1つだけです。 9個はずれているという事実を受け止めましょう。

カウンセリングでは、実際に不安を書き出しておいてもらって、あとで答えあわせをしたりします。いかにはずれているかを、カウンセラーと一緒に振り返り、そして、予想がはずれていたということを忘れずにいてもらいます。それが、次に不安になったとき、不安は当たらないんだという根拠になります。

不安と不満のどちらを引き受けるか

人は自由と安定の両方を望みがちです。しかし、自由と安定は相反するものなので両方同時に手に入れることはできません。安定するということは、何かが固定されているということなので自由とは言えませんし、逆に、自由であるということは何にも固定されていないから安定はしないのです。

人は自由か安定のどちらかを選ぶか、両方適度にバランスよく得るかといったことで悩みます。その際、なかなか選べないのは、それぞれにマイナス面も付随するからです。自由には不安が付随し、安定には不満が付随します。自由は不安定ということであり、未来が約束されていないため、不安になるのが自然なことです。一方、安定は固定される制限がかかるため、不自由さを感じ不満を生み出します。自由でありたいと願いつつ、不安にはなりたくない。安定したいけど、不満は感じたくない。人は欲張りな生き物なんです。カウンセリングで、自分が望むこと、引き受けていくこと、どちらが自分に向いている人生かなど考えていきましょう。

不安症・不安障害の種類

不安が強くなりすぎて日常生活に支障が出るほどなら精神疾患といえます。大きく分けて3つの診断があります。恐怖症を加えると4つになります。

全般性不安症・全般性不安障害

理由のわからない、漠然とした、次々にあれこれと浮かぶ、四六時中消えることのない不安です。その様子から、浮動性不安とも言われます。浮かんでは消え、を繰り返すモヤモヤとした煙のような不安です。特定の不安の消失をターゲットにできないので、認知行動療法が必ずしも有効であるとは言えません。気持ちを吐き出す来談者中心療法、または、不安が個人的にどのような意味を持っているのかや不安が湧いてくる背景などを探る精神分析的心理療法を行ったりします。

パニック症・パニック障害

特定の状況化で、動悸や発汗、震え、呼吸困難感などが現れることをパニック発作と言い、それが再び起こることを恐れる気持ちを予期不安と言います。この2つがそろうとパニック症・パニック障害と診断されます。広場恐怖を伴う場合と伴わない場合があります。広場恐怖とは、一般的な言葉の広場ではなく、公共の場というニュアンスに近いです。レジに並ぶことや、集団の中で座っていなくてはならない場面などの他、電車では、特に地下鉄や急行列車での不安が強いです。親しい人達の中で過ごしたり、親しい人に付き添ってもらえればパニック発作の症状は出にくいと言われています。特定の不安場面に対しては認知行動療法が効果的です。

社交不安症・社交不安障害(対人恐怖)

失敗して恥をかくこと、嘲笑され蔑まれることなどの可能性がほんの少しでもあると不安で仕方なくなってしまいます。注目されたり、人前で立って話したり、人前で字を書く場合などに強い不安を感じます。実際にそのような場面は回避されることも多く、その行動パターンが固定化され、本人らしさの一部になってしまうと回避性パーソナリティ障害と診断されたりします。カウンセリングの初期の頃は、カウンセリング場面自体が不安を引き起こすこともあります。そのことについて認知行動療法で取り扱ったり、あるいはカウンセラーに慣れてきたら、実際の場面の不安について認知行動療法を行います。

限局性恐怖症

これは不安ではなく恐怖が強い場合の疾患です。蛇や蜘蛛といった生き物、高所・閉所・暗所といった場所、血液、雷など、特定の事柄に対して強い恐怖を感じます。それらを避けている内は、日常生活が安定していますが、避けられない事態になると受診したり相談に行き始めます。原則、曝露療法を行います。弱い不安から強い不安まで、10個程度の項目を並べた不安階層表を作成し、スモールステップで克服していきます。

精神分析的心理療法による不安の取り扱い方

その不安はかつてのどんな不安が再現されたものか、その不安は何を代弁しているのか、その不安で守られるもの、そのエネルギーはどこへ向かい、どこへ収束してゆくのか、そして、その不安はどのようにその人に愛され、育まれ、あるいは離れられていくのか。そんなやり取りを望む人は少ないだろうけど、取り組むと、不安と仲良くなれるかもしれません。

偉い人にめちゃめちゃ怒られるとは思いますが、精神分析的心理療法の本質は、「大人の精神的発達を促す壮大な遊び」だと考えています。遊びに使われるおもちゃは、精神分析といった歴史的体系的なデータベースにある言語や概念です。それを用いて大人が自由に遊ぶ、その世界は安全に二者間に閉じられていて、曖昧で、ファンタジックで、深く広く伸びやかな世界です。子供の遊戯療法(プレイセラピー)の対極に位置しつつ、やってることは相当近いという・・・これ以上、言葉にすると胡散臭すぎるのでやめにします。一応、カウンセリングルームセンター南は、精神分析的心理療法を行うことができる枠組みにしてあります。寝椅子(カウチ)ほどゆったりした椅子ではないし、週に1回が限度だったりしますが、面接構造に関しては他所以上に気を配っています。