不登校の相談・カウンセリング

横浜市青少年相談センターで経験させていただいた不登校支援をベースに、公認心理師・臨床心理士としてカウンセリング用に発展させ、実践的内容としてまとめてみました。

不登校とは

不登校は、定義上は学校に行かない、あるいは行けない行動面の状態のことです。一般的に、不登校は問題行動が始まったと捉えられるか、あるいはなんらかの原因があっての結果だと捉えられがちですが、不登校というのは、子供の人生の一つの過程として流れの中で捉えなければなりません。これまでの人生の結果でもあり、これからの人生の原因ともなりうるからです。

不登校という行動だけをなんとかしようとばかりせず、不登校という結果を引き起こした本当の問題、つまり心の問題に目を向けてみましょう。電気を消そうとして電球に触ったら火傷しますよね?電気を消したいならスイッチを探す、そういう少し引いた広い視野が不登校支援では大切になってきます。そして、不登校がこれからの人生を悪くするだけのものではないという風に捉えなおしていきましょう。そういったことを保護者が理解しない限り、子供の心は歪んだまま成長してしまいます。

保護者への心理教育が重要

不登校に関するカウンセリングをしていてはっきりと思うことは、保護者のカウンセリングが必須だということです。カウンセリングというより心理教育と言った方がいいかもしれません。子供のカウンセリングだけを行ってもそれなりに社会に再適応していくことはありますが、保護者のカウンセリングをした場合の方が断然、子供が成長していきます。

不登校という辛い状況に陥ってしまった子供の心の理解の仕方を、これまた辛い思いをしている保護者に学ぶ必要があると伝えるのは大変心苦しいです。しかし、特殊な状況にある子供の気持ちを、少しの知識しか持たない保護者がうまく対応できるわけはないんです。保護者が原因であるとか、悪いというわけではありません。下手だ、と言っているんです。不登校への対応なんて下手で当たり前なんです。だから、学びましょうと応援しているんです。そこがなかなか伝わらないことが多くて、保護者を一層苦しませてしまうというジレンマに陥りやすいところが、不登校支援の初期の課題と言えます。

不登校対応のポイント

不登校対応のポイントは3つあります。登校に関すること、家庭に関すること、心に関することです。

1.登校後を想像しよう

校門まで登校してみることから始める等、少しずつ小さな目標設定をして乗り越えさせていく行動療法的なやり方は、不登校支援ではふさわしくないと考えています。教室に少しずつ近づけるようになったぞ、と嬉しく思う子供なんてほとんどいないからです。

不登校の子供を単純に教室に戻すことは、子供に再び辛い思いをさせて、保護者が安心する形だということを、まずは覚えておいてください。登校してほしいという雰囲気も、子供の気持ちよりも保護者の気持ちが優先だよと子供達に伝わってしまいます。登校という形が大事なのか、子供の心が大事なのか、カウンセリングで一緒に考えましょう。

教室に戻れそうな場合には、キーマンとなるクラスメイトが必要です。登校するところがポイントではなく、教室で過ごすということがポイントだからです。キーマンや過ごし方が見つからない限り、教室に戻すべきではありません。休み時間中、ずっと机で突っ伏していることになりかねないからです。

保健室登校や相談室登校は、ずっと家にいるよりは比較的子供達にとって罪悪感が少なく、家族以外と過ごす経験にもなり、どうにか頑張れる形であることが多いので、子供が望む場合には特に止める理由がありません。ただ、過剰適応という保護者の期待に過剰にこたえすぎてしまうタイプの子供もいるので、念のため、カウンセラーに相談してみることをお勧めします。

2.特別な思い出を作る

この重要性は、不登校支援後まで長く関わったことがある支援者にしかわからないことだと思います。スクールカウンセラーが書いた本や記事には出てこないこともあります。

不登校経験者は、大人になった時、過去の不登校時代数年分の記憶を真っ黒に塗りつぶしてしまっていることが多いです。そうした方のカウンセリングの初期には、当時のことは思い出したくないと言われ、カウンセリングが停滞します。心に闇を抱えたまま生きていくのは、平気なふりをしていても、やっぱりひどく疲れるようで、次第にカウンセリングでぽつぽつと話すようになってはいきます。

そんな大人にならないように、将来、不登校時代を振り返った時に、懐かしいと思い出せるような明るい思い出を作ってあげてください。それは、カウンセラーにはできない、保護者にしかできない大切な役割です。学校に行かないのに、遊びに連れて行ったり、楽しく過ごさせていいのかなんて悩まないでください。いいんです。とはいえ、保護者としてそれだけしていればいいわけではないので誤解はしないでくださいね。

また、家庭で過ごす時間が長くなり、外での経験が少なくなるので、家族関係がその時代の思い出として語られやすくなります。夫婦関係がよくない保護者は、カウンセリングでその問題に取り組んでおいたほうがよいと思います。

保護者がカウンセリングを続けている中、「お母(父)さん、変わったよね」と子供に言われるようになったら、家庭での対応はうまくいっていると考えてよいと思います。ただ、そんなにすぐに保護者自身が変わっていけることはないので、そう言ってもらえるのは最短でも1年ほど先だと思っておいたほうがいいです。

3.心を育てるという視点をもつ

そして、これが最も大切なことです。この不登校をきっかけに、子供の心がどのように育っているか、今の時点で把握しなおし、保護者としての心の関わり方を見直していきましょう。カウンセリングで子供の様子を話すと意外と気がつくことは多いものです。親だって本当は日々の注意ばかりしたいわけではなくて、子供の力を伸ばしてあげたいという思いはあるんですよね。ただそれが、うまく発揮できていないことが多いし、逆に子供を縛ってしまっていることも意外とあるのです。

例えば、これまで「物事には良い面と悪い面の両方がある」といったようなことを子供に伝えたことはありますか?「これは良い、これはダメ」といった二分する言葉ばかり使ってはいませんでしたか?「最低限、学校だけはちゃんと行ってほしい」と言ってきませんでしたか?もしかしたら、子供は保護者の言葉通り、「学校に行くという最低限のこともできない自分はダメ」という考え方を身につけてしまっているかもしれません。

他にも「人に迷惑をかけちゃダメよ」や「自分で考えなさい」「そんなことしてると恥ずかしいよ」といった保護者の言葉を組み合わせて、子供は「人に相談することは相手の迷惑になるし、相談するってなんか恥ずかしい」と思ったりしてしまっています。そういう子供の心を変えていく、育んでいくという視点がとても大切です。

その際、少しだけ保護者がこれまでの養育について子供に謝ったり反省したりすると、子供に変化が起きやすいです。保護者が自分自身の言動を振り返るようになると、子供も自分の言動を振り返りやすくなるからです。ただ、保護者が謝った時に、子供が意を得たりと怒り、ここぞとばかりに保護者を責めてくる場合もあります。それはそれで少しどころか大いに反省することがあるはずなので、カウンセリングで一緒に考えていきましょう。