パーソナリティ障害 ICD-11版

パーソナリティ障害が解体されます

もうしばらくしたら、パーソナリティ障害の下位分類がごっそり変更されます。かろうじて残るのは境界性パーソナリティ障害のみ。あとは、名前のつかない無数のパーソナリティ障害に解体されます。

中でも、自己愛性パーソナリティ障害は男性に多く見られ、演技性パーソナリティ障害は境界性パーソナリティ障害の診断基準を満たさない女性によくみられる特徴でした。カウンセリングを行う上でとても有用だったので、解体されて埋もれてしまうのはもったいないと感じています。

これまでの診断は、10タイプを用意しておいて、だいたいどのタイプかにクライエントを当てはめていましたが、これからは、おおまかな基準でクライエントがパーソナリティ障害の診断基準を満たしたら、その後、本人の持っている特徴を全て記述していく形になります。パッと見わかりづらくなりますが、今まで以上にその人のパーソナリティの問題は正確に記載できるようになるというメリットがあります。

パーソナリティ障害の5つの特性

否定的感情

negative affectivity

情緒不安定性・不安・服従・見捨てられ不安・悲観・低い自己評価・罪悪感や羞恥心・自傷・抑うつ・猜疑心

状況にそぐわない頻度や強度で、広範囲に渡ってネガティブな感情を持ちやすいということです。 不安、怒り、敵意、恥、落ち込み、悲観、罪悪感、自尊心の低さ、および不信感などです。そういった気持ちになると、人によってはすぐに落ち着くことが難しく、人に頼ったり、その場から離れなくてはなりません。

主に、従来の境界性パーソナリティ障害、妄想性パーソナリティ障害(猜疑性パーソナリティ障害)、依存性パーソナリティ障害、回避性パーソナリティ障害などの感情面に関する特徴がまとめられたような感じです。

無関心

detachment

ひきこもり・孤立・感情表出の欠如・快楽を感じない・親密さ回避

デタッチメントがなんて訳されるかわかりませんが、画像のように離隔という訳にはさすがにならないだろうと思うので、無関心としておきました。愛着不全とか内向性かもしれません。対人関係で距離を置いたり、感情的なやりとりをしない傾向のことです。コミュニケーションの回避、友情を育まない、親密さを回避するなど社会参加をしません。無口で、よそよそしく、感情表現に乏しいです。接客業に就くことを好みません。

従来のスキゾイドパーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害の特徴の一部に当たります。

非社会性

dissociality

冷淡・操作性・自己愛性・演技性・敵意・攻撃性・反抗性・虚偽性

他人の権利や気持ちを大切にせず、自己中心性と共感欠如の両方を持っています。自己中心性は、権利の主張やオーバーな表現、他人から褒められることを期待したり、注目を浴びたがるといった点でみられます。共感の欠如は、自分の利益のために人を騙したり、人から搾取したり、冷酷で腹黒く、サディスティックで、時には他人が苦しんでいることに喜びを覚えたりするといった点にみられます。対人操作性もみられます。そのような人は、褒められないと怒りや中傷で攻撃してきたりします。

主に、従来の反社会性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の特徴の一部に当たります。境界性パーソナリティ障害の操作性や演技性パーソナリティ障害の注目を浴びようとする特徴もここに入れられています。従来のパーソナリティ障害B群全体の特徴といった感じです。

脱抑制

disinhibition

衝動性・散漫性・無鉄砲・無責任

何かが起きると、その瞬間の感覚や感情、思考の赴くまま、結果を予想せずすぐに行動に移してしまったりします。衝動的で注意や気分が移ろいやすく(転導性)、無鉄砲で無計画な行動をとるということです。例えば、無謀な運転、危険なスポーツ、薬物乱用、ギャンブル、出会ったばかりの人とセックスをするといった行動です。

主に、従来の境界性パーソナリティ障害の自暴自棄の特徴や、演技性パーソナリティ障害の浅はかさといった特徴に当たります。

強迫性

anankastia

完璧主義・固執性・頑固・秩序志向・リスク回避

制縛性と書かれていますが、多分これまで通り強迫性に落ち着くのではないかと思います。ただ、強迫性障害との混同を避ける目的が強ければ制縛性となるのかもしれません。完璧主義で、正しいか間違っているかといった自分なりの基準に固執します。それは、自分自身だけに留まらず他人をも従わせようとし、基準が守られるように状況をコントロールしようとします。完璧主義は、ルールの順守、善悪の規範、細かすぎる過密な計画、秩序の維持や、整理整頓などにみられます。リスク回避を優先し、我慢強いですが、頑固で、感情や行動が自由ではなく息が詰まる感じです。基準が満たされていないと感じれば、他人の仕事であっても、自分がやり直してしまう場合があります。

ほぼ従来の強迫性パーソナリティ障害に当たります。

パーソナリティ障害 32の下位特性

どうやら統合失調性という項目は正式採用されず、6領域37特性ではなく、5領域32特性になったようです。覚えるのが5個減るのでありがたいです。

パーソナリティ障害32特性icd-11
CRCM所長が研修で使用しているスライド

さすがに各項目一つ一つ説明はしていられないので、そこはもう専門家にまかせてください。単語だけ見れば自分に当てはまるものが多いと感じてしまうかもしれませんが、 言葉の方に自分の状態を寄せていってしまうことも多いので注意が必要です。また、ここに書かれているのは日常語ではなく専門用語としての意味を持ちますので、あまり自分で決めつけないようにお願いします。

今後はパーソナリティ障害○○型?

従来のパーソナリティ障害の下位分類は解体されますが、今後、専門家間におけるクライエントの情報伝達の際、パーソナリティ障害という大きなくくりだけでは伝わりづらくなるという問題点がありそうです。それを解消するため、32項目の内、他の領域に比べて特性が多く挙げられている領域の名称を代表としてくっつけて、パーソナリティ障害○○型と言われるようになるのではないかと思います。解体された後には、再構築されるものですから。

パーソナリティ障害否定的感情型、パーソナリティ障害無関心型、パーソナリティ障害非社会性型、パーソナリティ障害脱抑制型、パーソナリティ障害強迫性型という5つに加えて、パーソナリティ障害境界性型の6つです。混合型入れて7つ、特定不能型入れて8つ・・・。結局、人はカテゴライズしないと落ち着かないんじゃないかな。

以上はWHOによるICD-11の話です。アメリカ精神医学会によるパーソナリティ障害の診断名は、まだ従来の10タイプのままです。おそらく次のDSM-Ⅵへの改定で、ICD-11に似た形になると思います。それまでは、パーソナリティ障害の診断名が混在してしまうので、使い方には気をつけなくてはならないなと思っています。

※ICD-11の日本語訳版が出たら、加筆修正します。


参考までに統合失調性が含まれていた頃のバージョン画像