境界性パーソナリティ障害 ICD-11版

境界性パーソナリティ障害 / 情緒不安定性パーソナリティ障害 境界型

borderline personality disorder / emotionally unstable personality disorder, borderline type

診断項目に沿って、臨床的にみられる境界性パーソナリティ障害の方の内面や行動面を記載しておきます。一部の人に当てはまり、一部の人には当てはまらない内容もあるので、正確な診断は受診して医師の診察を受けてください。

不安定な自己像(アイデンティティ)

自分に何ができるのか、何をしたいのか、自分がどう思っているのか等がはっきりわからないという感覚です。自分がどうありたいかより、他人にどう見られたいかという方が強くなってしまっています。自分は他人に興味がないけれど、他人から見られる自分には興味があるということです。

継続的に身につけてきた技術や知識がないため、年齢相応のスキルを持っていない場合が多いです。それを補うためか、瞬間的にですが、愛想を良くしたり、相手を褒めたり、相手に合わせたり、相手に気に入られるスキルばかりが高くなっている方もいます。長続きはしないので、就職面接には通っても、数か月で退職してしまったりします。

不安定な情緒(感情・気分)

双極性障害(躁うつ病)という精神疾患に、躁と鬱が急速に交代する(ラピッドサイクル)タイプがあるのですが、急速と言っても、それでも数日から数か月での入れ替わりのことを示しています。境界性パーソナリティ障害の方は、数日どころか、1日の中で何度も、状況の変化がなくとも、イライラや泣きたい気持ち、ハイテンションなどが切り替わります。切り替わっているように見えますが、実は整理されていない混沌とした気持ちがランダムに出現しているといった方が適切かもしれません。

双極性障害と境界性パーソナリティ障害は、どちらも誤診(?)があるようです。病院を変えると診断名が変わる方をよくみかけます。医師の診断に対する考え方が関係しているようです。どちらかではなく併発という場合もあります。

不安定な人間関係(対人関係)

出会ってすぐに親しくなったり、尊敬の念を抱いたりした相手に対して、しばらく過ごすと急に手のひらを返したように冷たくなったり、見下したりするようになります。理想化と脱価値化という特徴です。良い部分を見つけると全てが良いと感じられる一方、少しでも嫌な部分を見つけると全てが嫌だと感じられてしまいます。

境界性パーソナリティ障害の方とのカウンセリングでは、必ずといっていいほどこの特徴が現れます。そもそも、カウンセラーを理想化できないとカウンセリングに通い始められないからです。ボチボチのカウンセラーとやっていこうかな、とは絶対に思えません。徐々にわかってもらおうという考え方は無く、わかってもらえたと感じるカウンセラーとしか始められないのです。そうして、徐々に「なんか思ってた感じじゃない」と辞めたくなっていきます。

慢性的な空虚感

言葉には表せないもののようです。一瞬楽しくても、「でも、だから何?」みたいな感覚になるようです。表面的には同年代と笑って話せることもあるようですが、その後、なんの中身もなかった会話にひどく虚しさを感じたりします。

「結局」が口癖の人が多いです。「結局、人はいつか死ぬし」、あらゆることがそこに結び付けられるため、何に対しても意味を見出せません。もちろん、結局死ぬのだから、努力して何かを身につけるなんて意味がありません。人間関係を大切にしたって、どうせ死ぬんだから無意味です。人生わかっちゃった感がすごいです。一般的に健全な人が体験しないような辛い体験をしてきたから、そう結論づけてしまいやすいようです。

解離症状

ときどき、現実的な時間の過ごし方をしていない瞬間があります。強い負の感情が引き金のようです。

例えば、人と口論になったりすると、その間のことを覚えていないということが割とあるようです。交際相手と外で喧嘩になった時、別人になったかのように相手に罵声を浴びせたり、何を言っても受け入れず、妄想的に泣き叫んだりします。場所や人目を気にするといった現実検討能力は失われてしまい、相手や周りの人に警察を呼ばれてしまうこともあります。暴れてケガをしたりもします。しばらくすると、放心状態になったりします。

激しい怒り

相手に全てをぶつけきるまでおさまりがつかないほど強い怒りです。1日あるいは数日我慢できたとしても、その怒りはまるで静まることなく、ある日、そのままの強さで相手にぶつけられるため、相手はなんのことかすぐにはわかりません。物を壊さずにはいられないことも多いです。

さすがに、好きな相手に対して殺意を抱くほどの怒りを自分が感じているのはおかしいとも思っていることがあります。きっかけとなった出来事が、取るに足らないことだと気がついていたりもします。

自暴自棄にみられる衝動性

空虚感や怒りを鎮めようとする対処行動のようです。一時的でもいいから、強い刺激でかき消したい、忘れてしまいたい、あるいは眠ってしまいたいという思いがあるようです。未来より今が重要で、「刹那」という言葉の響きに惹かれるようです。自暴自棄に見えますが、本人は今の自分をなんとかして救おうとしているという側面があり、なかなかこれらの問題行動だけ解消しようとしてもうまくはいきません。

自傷行為または自殺のそぶり

「本当に死ぬつもりだった」とほとんど全員が口にします。絶望を感じた時の行動です。「死ぬつもりはなかった」と言う人は極めて稀です。この辛い気持ちをわかってもらえないなら、生きていても意味がない、言葉で伝えても伝わらないなら、こうするしかないという感じです。一か八か、全てを賭けて、全身で自分の抱えている苦悩を表現するということです。しかし、残念ながら、これをすると逆に周囲の人との関係は悪化します。

そこまでさせないように、周囲の人は、言葉で本人達に語らせてあげることが大切です。本人達は、気持ちを語るのが上手ではないし、周囲の人も、聞き方が上手でないことがほとんどなので、話すと2、3時間になってしまうことも多いでしょう。そんな中、周りの人が下手な助言をすると、本人達は、話を切り上げようとされているように感じます。多くの場合、会話している途中で「もういい!」と突然立ち上がって、キッチンかベランダに行く感じです。本人達は、カウンセリングで気持ちの話し方を練習し、周囲の人たちは、気持ちの聴き方を学びましょう。

見捨てられ不安およびその回避努力

相手が自分から離れようとすると、文字通りしがみつきます。本人達にとって、相手から手を離したらそれは関係が終わることなんです。デート中、少し険悪になってしまって、相手から「今日は帰るだけ、また明日話そう」なんて言われても信じられません。それはその場の嘘で、離れてしまったら「もう会うのはやめよう」と言われると思っています。なぜなら、逆の立場だったら、自分はそうするからです。自分が嘘つきだから、相手も嘘つきだと思っていたりします。

物理的距離と心理的距離が同じものと感じられています。境界性パーソナリティ障害の方は、なるべく好きな相手とくっついていようとするようです。毎日夜に電話が欲しいし、お風呂には一緒に入りたいし、夜寝る時は手をつないでいてほしいとよく聞きます。

現在は、上記9つの診断項目の内、5つが当てはまると境界性パーソナリティ障害と診断されます。今後は、下記の3つを加えて12項目となり、そのうち5つを満たすと、境界性パーソナリティ障害と診断されるようです。

無力で罪深く、うんざりされ、蔑まれる悪い存在だと感じる。

他の人達とは違うという意識、疎外感、孤独感(孤立感)がある。

拒絶されることに過敏に反応したり、対人関係における適切な信頼関係を築いたり維持することに問題があったり、頻繁に社会的な合図(social signals:表情や仕草)を誤解する。

最後の一文が秀逸すぎます。境界性パーソナリティ障害の方が、カウンセラーの表情や仕草を誤解するということが臨床的にかなりあるからです。誤解というレベルではなく、かなり一方的な解釈で訂正不可能だという記述も欲しいくらいです。

これは、境界性パーソナリティ障害の方に限ったことでなく、広くパーソナリティ障害全般の方に当てはまります。カウンセラーが、なんて言葉で返そうかと眉間にしわを寄せて考えようものなら、パーソナリティ障害の方は睨まれたと誤解します。カウンセラーが少し対話のペースを落として落ち着いた方がいいかと小さく一息つくと、溜息をつかれたと誤解します。クライエントの心情を想像したら、なんとも簡単に言葉にできない気持ちを感じて、カウンセラーが言葉を返せずに少し困ったように微笑むと、呆れられた、笑われたと誤解します。

境界性パーソナリティ障害の方は、複雑な気持ちを捉えることは苦手なはずなのに、「自分は人の気持ちがわかる」とも言います。自分が誤解している可能性は考えず、「カウンセラーが認めない」と言い張ります。自分にはそんな複雑な、アンビバレント(2つの反する気持ちを同時に感じること)な気持ちを体験することがないから、カウンセラーがそんな複雑な気持ちを体験していると想像できないのでしょう。そんな時は、ほんの少し知識を身につけて、自分の状態を理解してほしいと思ってしまいます。自分の感覚を手掛かりに他人を理解しようとしているから関係がうまくいかないのだと知ってほしいです。

何度も傷つき、傷つけられたという体験になるかもしれませんが、関係を切らずにいれば、それはパーソナリティ障害の方が生きていく一つの糧となります。共に乗り越えていきましょう。