自閉スペクトラム障害 ASD

自閉スペクトラム障害

もともとは独立した診断名だった自閉症とアスペルガー障害が、一つの連続体としてまとめられた名称です。スペクトラムspectrumが連続体(帯)という意味です。もともと自閉症とアスペルガー障害は、三つ組の障害を持っていると言われていて、(1)言語によるコミュニケーション、(2)社会性、(3)想像力の3つの領域に障害があると考えられていました。その内2つを満たしているかどうかが診断基準となっていましたが、現在は、三分割ではなく、(1)言語によるコミュニケーションや社会性の障害、(2)想像力の障害という分けられ方をしていて、その2つが診断基準に必須となりました。まとめられたと書きましたが、実際は、自閉症は自閉症と表現され、かつてのアスペルガー障害がほとんど自閉スペクトラム障害に置き換わったと考えておいて差し支えありません。唯一、想像力の障害がないアスペルガー障害の方は、現在の診断基準では、コミュニケーション障害ということになり、自閉スペクトラム障害ではなくなったということが違いです。

社会性およびコミュニケーションの障害

場にふさわしい言葉遣いができない、相手によって言葉遣いを変えられないといった特徴があります。初対面でも敬語が使えない、どんなに仲良くなっても敬語で話し続けるなどです。また、言葉を文字通り受け取りやすく、抑揚によってニュアンスを汲み取るなどが難しいです。楽しそうに親しみを込めた「バカだねー」という言い方であっても、バカだと言われた、としか感じないようです。逆に、皮肉や嫌味を言われても気づかなかったりします。たとえ話は逆にわからなくなるのでやめてくださいということもカウンセリングでよく言われます。目くばせ、アイコンタクトで意思の疎通をはかるなんて、意味がわからないそうです。「目では喋れませんよ」

想像力の障害

髪型や服装に無頓着な場合があります。ファッションというあいまいなことに興味が持てないということもありますが、相手から自分がどう見えているのかを想像することができないというのが大きな理由だと思われます。鏡を見ている最中は自分の姿が見えますが、想像力の障害によって、鏡を使わずに対面からの自分を姿を思い浮かべるということができません。もしかしたら、集中すればできるかもしれませんが、日常的にそのようなことを続けるのは難しいようです。特に鏡を使ってもあまり見ることのない、自分の後ろ姿を想像することが苦手です。おそらく、映画館で前の席の人の頭が邪魔だなとは思う一方で、後ろの席の人にとって自分の頭がどんな感じで邪魔になっているのか想像することは苦手なはずです。それを、空気が読めないとか、気が利かないと言われてしまうことが多いのではないかと思います。自閉スペクトラム障害の人は、世界は自分の眼前にのみ広がるもので、自分の後ろには世界がないという感覚なのかもしれません。

カウンセリングでは、自閉スペクトラム障害の方の想像力のなさに配慮した伝え方を心がけます。例えば、カウンセラーは「もう少し空気を読もう」とは言わずに、「後ろを振り返って、後ろの人とスクリーンを結ぶ直線状に自分の頭がこないようにしよう」と伝えたりします。

寝ぐせのままカウンセリングにくる男性の方は、トイレのドアは開けっ放し、ノックすることなくカウンセリングルームに入ってくるという共通点があったりします。 そういう社会性のなさについて、傷つけてしまわないように教えていくこともカウンセラーとして大事な役割だと考えています。

自閉症

自閉症の定義には、知的障害の有無は問わないとありますが、支援現場的には自閉症という言葉を使う時は、知的障害がある場合のことを指します。知的障害が伴わない自閉症の方は、高機能自閉症と呼ばれます。平均以上の知能、つまり高機能を持っている自閉症という意味です。

自閉症の方は、言葉自体は発しますが、文脈などが健常者に理解できるような話し方ではありません。単語だけであったり、どこかで聞いたフレーズを繰り返していたりします。欲求がそのまま言葉になるようなことはあまりありません。

自閉症の方の行動は、健常者にとって奇妙に映ることだろうと思います。しかし、言葉でうまく表現できない自閉症の方にとっては、行動は言葉と同じ、外界と関わるために一生懸命手を尽くしている唯一の手段かもしれません。言いたいことがあってもうまく言葉にはできなくて、噛みついてしまう、叩いてしまう。問題行動ではありますが、誰にとって問題かということを考えなくてはなりません。自閉症の方には、権利や法律、社会などの概念がおそらくないのですから。行動しか表現方法がないなら、むやみに制限してしまっては理解することができなくなってしまいます。なんでも許さなくてはならないわけではありませんが、極力、安全に配慮して自由に行動できる場を与えてあげることが大切です。

自閉症の子供と暮らされている家族の方は、そんな程度じゃないよ、わかったこと言うなよと感じられると思いますが、何卒ご容赦ください。

アスペルガー障害

アスペルガー障害には4つのタイプがあると考えられています。

積極奇異型

もっともアスペルガー障害のイメージ通りのタイプです。人と接する距離が近すぎて、唾を飛ばして、一方的に自分が興味のある話を続けたり、頭を抱えてうずくまったり、変わった姿勢で椅子に座っていたりします。そして、そんな自分に全く気がついていません。カウンセリングでは、過去を振り返る時に、何歳頃というレベルではなく、何年何月頃だったかな、いや、何月だったかな、という数字に対して細かくこだわる姿がみられます。自己開示してくれる分、カウンセリングでは生きやすさを模索していく糸口が見つけやすいです。

孤立型

積極奇異型に対して、全然人に近づかないタイプですので、人に直接的な不快感を与えることはあまりありません。しかし、表情は乏しく、周囲の動きに関心を示さないので、周囲の人は本人が何を考えているか戸惑ってしまいます。もちろん、本人は周りの人がそのように思っていることについて気がついていません。本人の中では様々な考えが浮かんでおり、それを独自の視点で展開させすぎてしまっている感じがあり、カウンセリングでは、カウンセラーがついていくのが難しいくらいの話になりがちです。

受け身型

基本的にニコニコしているので、アスペルガー障害っぽさがあまりありません。しかし、会話の膨らまなさからは、紛れもなくコミュニケーションの障害を感じます。拒否的ではないのですが、一問一答であったり、出来事だけ話して感じたことなどは語れないといった特徴があります。嫌な思いをしていても、表情に出なかったりするので、カウンセリングを突然休んだり、辞めてしまったりします。カウンセラーであっても、このタイプの方の内面を窺い知ることは容易ではありません。

大仰型

背筋は伸びて、動きはゆっくり、髪は短く、沈思黙考、カウンセリングでは話していない時には目を閉じて微動だにしなかったりします。アルカイックスマイルといわれる表情で、仏像を連想させるイメージです。言葉遣いは古風で丁寧ですが、あまり日常会話で使うことのないような言葉を入れてきます。何かを尋ねると「私はそれについては存じ上げません」と返してきたりします。数人にしか会ったことがありませんが、いずれの方も、写経をしていたり、漢文や古文に精通していました。アスペルガー障害の方は、数字に対するこだわりを強く持っている方が多いとは思いますが、漢字に強いこだわりを持つタイプもいるのではないかと思います。カウンセラーができることは、このタイプの方がたまに凡俗な下界におりてきたときに、様子を聞かせてもらったり、世間の様子をお伝えするにとどめておくくらいじゃないかと考えています。